「国宝」劇中曲のこだわり、「Luminance」誕生までを原摩利彦が徹底解説【109シネマズプレミアム新宿特別上映】
2026年1月31日 11:00

邦画実写映画の歴代興行収入ランキングの記録を22年ぶりに塗り替え、第49回日本アカデミー賞では、最多12部門、16の優秀賞&新人俳優賞を獲得、さらに第98回米アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞ノミネートと、社会現象を巻き起こしている映画「国宝」(公開中)。本作の音楽を担当し、第67回日本レコード大賞特別賞や毎日映画コンクール音楽賞などを受賞した原摩利彦氏によるトークショー付き特別上映が、109シネマズプレミアム新宿で1月17日に開催された。
この日は観客からも数多くの質問や感想が寄せられ、大作の風格を備えたドラマチックなメインテーマをはじめ、劇中曲のこだわり、そして主題歌「Luminance」誕生秘話まで、原が実演や貴重な制作過程の資料を紹介しながら様々なテーマについて語った。

まずはイベント冒頭、原は「この作品に出会えたのが本当に幸せ」と笑顔で語り、会場を和ませる。ソロ活動にとどまらず、アートパフォーマンスや舞台作品など幅広い分野で活躍してきた原だが、映画音楽制作の醍醐味については、「監督と一緒に作ることができるのが1番の醍醐味。ソロの作品は1人で悩みながらの制作になりますが、それを共に悩めるのが大きい」と明かした。
映画「国宝」の音楽制作では、李相日監督、杉田寿宏音楽プロデューサーとともに、映画公開(2025年6月)の前年11月から、計5回、4週間以上にわたる泊まり込みのディスカッションを実施。「京都合宿」と名付けられたこの時間を通じて、作品の根幹となる音楽が練り上げられていったという。
制作の初期段階について原は、「最初はメインテーマのメロディではなく、舞台の得体のしれない存在のような抽象的な音を提案していたんです」と振り返る。一方で李監督からは「この音は生かしながら、この映画といったら、このメロディというものが欲しい」という明確なリクエストがあり、「メインテーマができるまでがなかなか大変でしたね」と率直な心境を語った。
デモ音源はデータで送付していたものの、「李監督はそれに対してメールで返信するのではなく、京都まで来て感想を仰るので、それまでよかったかどうかがわからなくて、すごく緊張していました」と吐露する。
音楽制作のタイミングについて、「映像が完成した後なのか、ラッシュの時点なのか?」という質問が投げかけられると、「映像が完成されてから」と回答。まず試写室で、音楽が一切付いていない状態の映像を3時間通して観ることから作業が始まったという。
その後の工程については、「全曲、1曲ずつプロジェクトを作るのですが、李監督とは全曲、一番初めの音から最後の音まですべて聞いて確認していきます。『ちょっとこの音は大きいかも』とか『この音はなくした方がいいかも』などディスカッションして、本当に音が消え行くところまで一緒に作るんです」と説明。監督と徹底的に音を決めていった。
また、李監督作「流浪の月」(2022)の制作時には「映像に音楽をつけるな」と指示された経験にも触れた。原は、「映画音楽の作り方をテーマにした動画コンテンツなどでは、音と映像がどういう風にシンクロするか、そんなトピックが多いのですが、李監督の場合は、映画音楽は、出てくる人々のその心の襞、そういう所に音、音楽を狙ってほしいと」と具体的に明かす。
実際の制作では、「この曲は誰についているのか? 喜久雄か?俊介か?」といった視点や、「この夜明けのシーンは春江の気持ちについた方がいいんじゃないか」といった議論を重ねながら、音楽を探っていったという。
トークの途中では、映像に音楽をつける際に使用する作曲ツールのモニターを会場スクリーンに投影し、冒頭の乱闘シーンを例に、プリペアド・ピアノ(グランドピアノの弦の間に異物を挟み込み音色を変化させる方法)や、中世の楽器ヴィオラ・ダ・ガンバなど、多様な音を重ねながら一場面ごとの音や音楽を構築していくプロセスが、視覚的に解説された。

ひとつのメロディ要素や構造を使って、他の場面にも展開するという話題から派生し、「ヴィオラ・ダ・ガンバの低音が、1番最初の乱闘シーンで鳴って、その次は、喜久雄が人間国宝となり『鷺娘』の衣装を着て、楽屋で立つ時に鳴るんです。どうして繋げたかというと、劇場の上方を見ながら喜久雄が『誰か見てるんやろな』とつぶやくセリフがありますが、実は喜久雄が子どもの時から、なんか劇場の得体の知れないものが、彼を呼んでいた……そういう音楽シナリオを勝手に考えたんです」と明かす。
その“音楽シナリオ”は、2017年の野田秀樹作・演出の新作歌舞伎「野田版 桜の森の満開の下」に携わった際、歌舞伎座でのサウンドチェック時に、自らの身体が重く沈み込むような不思議な体験をし、その現象は“歌舞伎座の洗礼”だと言われたことを思い出したことがきっかけだった。原自身の、まさに運命に呼ばれるような経験を、喜久雄の人生に重ね合わせた。
さらに、「実はあともう1つ、最初から喜久雄が何かに呼ばれていた……というのは、『チェンジリング(1980)』(ピーター・メダック監督)というホラー映画からの影響もあります」と告白。
「母親が映画が好きで、僕が1番最初に映画館で観たのが『プレデター』(1987/ジョン・マクティアナン監督)だったんです。きっと今だったらレイティングで子どもは見られないような、大人の映画の教育を小さい頃から受けておりまして(笑)、そのうちの1つが『チェンジリング』です。妻子を事故で亡くした主人公が、1人で引っ越した先の屋敷で起こる心霊現象を描いていて、実は、最初のその事故が必然だったという物語。そんな(運命の必然性という)意味でこの映画も思い出しました」と、幼少期からの意外な映画鑑賞歴と「国宝」“音楽シナリオ”の着想源を紹介した。

次に、伝統的な歌舞伎の演目上の音楽に、映画音楽をどのように重ねていったのかという質問が寄せられた。原はまず、三味線など日本の伝統楽器で奏でられる歌舞伎音楽と、ピアノをはじめとした西洋音階との間にある根本的な違いについて説明。西洋音階とは合わない音が存在し、どちらかに合わせると音楽が一律化してしまうそうで「お囃子の音があって、まずその上に音楽をつけていきます」と基本的な考え方を明かす。
実際の制作では、「『曽根崎心中』のシーンだけは三味線のピッチをやや意識しましたが、最後の方は考えずに強引に」進めたという。その背景として挙げたのが、過去に携わった野田秀樹演出による新作歌舞伎での経験だった。
「野田版の新作歌舞伎の時に、囃子方の田中傳左衛門さんとご一緒し、僕の音楽と囃子の演奏とをぶつけるような、舞台に乗せるようなやり方をしたんです」と振り返り、その際に「歌舞伎の音楽はなんて自由なんだろうと思った」と語る。「『電子音とか原さんの音をどんどん入れてほしい』って仰っていただいたり」と、新しい音を歓迎された経験が転機になった。「もちろんこちらも、リスペクトしながらですが、そこで自由を感じました。ですから、今回の『国宝』でも、あまり抵抗なく、好き放題にできました」と述べ、歌舞伎文化の中にある新奇性を受け入れる土壌について言及した。
さらに、「初音ミクを取り入れた“超歌舞伎”などもありましたし、僕も最初から飛び込めるという気持ちはありました」と語り、伝統重視のイメージとは異なる、現場の実感を明かす。「実際にかかわっている方々たちは、古典をしっかりやられた上で今に生きていらっしゃって、さらにこれから先を生きられるわけですから、新しいことを喜んでくださる印象がありました」と、歌舞伎の担い手たちへの敬意を込めて述懐した。
今回の音楽制作では、ヴィオラ・ダ・ガンバやリュートといった中世の楽器を使用した点も特徴的だ。その理由について原は、「歌舞伎は1603年に京都で誕生したと冒頭にでてきますので、その時代に西洋でよく使われた音色を持ってきました」と説明する。さらに、「かつて武満徹は、勅使河原宏監督の『利休』(1989)で、利休の茶の湯と同時代の中世の作曲家ジョスカン・デ・プレの曲を引用しています」と映画音楽史に触れ、「そういった手法が映画音楽の文脈の中にあって、僕の場合は楽曲ではなく音色の引用を試みました」と、自身のアプローチを位置づけた。

その次は、主題歌「Luminance」の話題に。当初は原に対して主題歌の依頼はなかったが、本編の主要な撮影・制作が終わった2024年の12月頃に李監督から提案されたという。本編の主要な部分の音楽を作り終え、「自分自身が解放された気分」になっていたこともあり、主題歌は翌年1月、年明けにデモを作成し、悩まずスムーズに制作できたと振り返る。作詞に関しては、メロディが完成後に「言葉がシンプルでありながら、メロディに乗った時に動いて輝きを増す印象」を持っていたという坂本美雨に依頼した。
井口理(King Gnu)の歌唱については「とにかく、最後に上から声が降ってくるようなイメージで、ボーカルで歌い上げるより、書かれた文字と言葉を読む、その間に立ち上がる瞬間のような感じ、これは音なのか声なのかわからないぐらいのところが出せたらいいなと」と構想した。曲のキー変更もあったそうだが、「井口さんが最初にデモ入れて送ってくれた時に、もう、口で説明するとかではなく、音のやり取りでちゃんと真髄まで掴んでおられるのがわかりました」と井口の音楽的な理解力の高さに言及。
1月から主題歌の構想とデモ制作は始まっていたが、歌詞が確定したのは3月に入ってから。井口のレコーディングを経て、最終的な工程完了までに要した期間は約10日間という短期間だったことも明かされた。
また、「Luminance」では印象的なリュートやヴィオラ・ダ・ガンバに加え、チェロを歪ませた音など多彩な音色が用いられており、それらが劇中の他の場面の音楽ともリンクすることで、映画全体に統一感をもたらしているという。音源や実演を交えた解説は、楽曲が果たす役割をより立体的に伝え、会場を沸かせていた。

「国宝」オリジナル・サウンドトラックも映画公開と同時に発売された。主題歌「Luminance」、メインテーマのほか、トラックリストの1曲1曲すべてにタイトルがつけられており、すべて原自身によるものだそう。「新世界」「白亜」「開花」「夜明け」など物語の情景が浮かぶような楽曲名が並ぶ。
きらめくような繊細な金属音の導入部(実はピアノだそう)から、ピアノソロに移る美しい楽曲「一対の宝玉」は、映画本編後半の喜久雄と俊介の「二人道成寺」シーンで使われている。「俊介と喜久雄が2人で鐘に上がっていくように、2つの音で上がっているんです。そこで『一対の宝玉』だ! とひらめいて、すごく嬉しかったです(笑)。海外配信エリア用の英語タイトルも含めて、楽曲のタイトルは全部自分で考えています。これはかなり楽しい作業でした」と振り返る。

「国宝」以前から原の活動を追い続けているというファンからの労いの言葉とともに、楽曲制作時の思いについて問われると、原は感謝の言葉を述べながら、「(映画の)メインテーマは難しくて、時間もかかりますし毎回良いものが書けるかどうかの確証はないんです。もちろん形にはできますけれど、それが本当にこの作品に合っているかどうかはわからないので、とにかく夢中になって、全身全霊でやっています。ですから、後から振り返ると毎回どうやって作曲してたっけな……と思うくらいなんです」と告白する。
「今回、僕は本当に喜久雄に入り込みました。僕も親が大芸術家だったわけでもでもないですし……喜久雄に入り込みすぎて俊介のパートの曲がなかなかできなくて。それで、『ちょっと俊介に入ってくれるか』と李監督に言われ、『わかりました』と俊介のことをずっと考えてみると、彼のことも好きになっていて。こんな愛情で動くところがあるので、とにかく作品に没頭して、その人(登場人物)がその中だけでも幸せでありますように……というような気持ちでやっているような気がします」と振り返る。
ここでは、メインテーマの冒頭のスコアをスクリーンに投影し、レコーディング時のエピソードを披露。ソロのように聞こえるチェロは、実は3本の多重録音、主旋律の裏に異なる奏法を重ねている。オーケストラは2つのグループに分けて録音したという試みなど、楽曲制作過程についての専門的な解説とともに、魅力的な音作りのための創意工夫を紹介した。

本イベントは、故坂本龍一が音響監修を務めた109シネマズプレミアム新宿で行われ、この日1月17日は坂本の誕生日というタイミングだった。生前の坂本と親交のあった原は、映画音楽においてはどのような影響を受けたのか、という問いが投げかけられると、代表作に触れながら、まずは作曲家としての坂本の姿勢への敬意を語った。
「坂本さんの、『戦場のメリークリスマス』の音楽の当て方がまず天才的だと思います」と切り出し、「あんなに勢いがあった方が、『ラストエンペラー』ではぐちゃぐちゃになりながら2週間ほぼ徹夜でやって、終わった後に入院されたそうです。それでも作り上げて……」と、極限状態で作品に向き合ったエピソードを紹介。さらに「何年も経ってから『レヴェナント 蘇えりし者』でまたボロボロになりながら挑戦するというそのスタンスはすごく尊敬しています」と述べ、晩年に至るまで挑戦をやめなかった坂本の姿勢に言及した。
加えて、「坂本さんは晩年『自分でできる限りスコアを書く』と仰っていて。僕もできる限り自分で書きたい、それは坂本さんからの影響が大きいです」と、自身のスタンスにも強く影響を受けた。
原自身の映画音楽の制作体制は「幸いなことに演奏者たちにすごく恵まれている」そうで、「気になったところはリーダーの須原杏さんを中心とする演奏チームで問題点を洗い出し、自分たちでモニターを聞いて解決していくんです」と、演奏家との密な連携を取っている。また、「自分も演奏する人たちの顔を浮かべてスコアを書くので、その気持ちを隅の方までやりたいなと思う」と述べ、さらに「絵と音楽の中で実験をする中で、今までやったことないことをぶつけたい、そういう気持ちがあります」と、映画音楽ならではの実験精神についても触れた。
続いて、「『国宝』のサントラの中で教授へ聞いてほしい部分は?」という質問が投げかけられると、「最初の(乱闘シーンの)プリペアド・ピアノは(坂本の技法に)『ちょっと似てるんじゃないかい?』って言われるような気もするんですけど……(笑)」と前置きしつつ、「お墓参りで『喜久雄に花井半二郎を継がせる』という会話をしている場面で、(俊介の母役の)寺島しのぶさんが怒る、あの時の音楽を聞いてもらいたい」と、特に印象深い場面を挙げた。
その音楽について原は、「あの音楽は、役者たちの感情に寄せずに、彼ら3人の中を漂うような音楽を作ろうと考えました」と説明。続く舞の場面で流れるテーマは、「チェロ奏者の多井智紀さんのアイディアで、弓の弦をダルダルに緩ませてから、マイクに近づけて弾くんです。なのでバイオリンとビオラは立って録音しました」と具体的な手法を明かし、「そうすることで、なんだかぼわぼわした、こっちが用意したシンセと生楽器の間みたいな音が鳴るんです」と、その効果を解説し「これは、坂本さんもやっていないんじゃないかな(笑)」と、原の独創的な試みであることを付け加えた。

イベントの終わりに、原はあらためて映画「国宝」への思いを語った。「本当にこの作品は僕にとって本当に生涯忘れられません。きっと臨終の時に『国宝』をやったな……と思い出すと思う」と感慨深げに述べ、「Luminance」は「喜久雄の話が神話であったかのようにしたいと思って作曲した」と、主題歌に込めた意図を振り返った。
そして、制作当初には予想もできなかった昨今の大反響に「空前のブームのようにどんどん広がっていって、本当に『国宝』は現代の神話になっていくんじゃないかな、と思っています」と語り、「本当に皆さんのおかげです」と改めて感謝の言葉を述べる。最後に、「これからまたも違う映画、そして映画以外の作品を作り続けますので、もしよろしければそちらの方も注目して、聞いてくだされば嬉しいです」と、今後の創作活動への思いを伝え、イベントを締めくくると、会場は観客から上がった温かく大きな拍手に包まれた。
映画「国宝」は全国で公開中。
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