【「メイクアップ・アーティスト ケヴィン・オークイン・ストーリー」評論】美の定義に革命をもたらしたアーティストの、せつなくも魅力的な肖像
2022年10月16日 07:00

80年代後半から90年代、ニューヨークで花開いたファッション・フォトグラフィーには、いまも人々を惹きつけてやまない美しさがある。それはスーパー・モデルや女優といった美女たちが写っているからというだけじゃない。その女性たちをより美しく見せたアーティストがいたからだ。その筆頭が、ケヴィン・オークイン。細眉、リップライナー、コントゥアリングといった、いまでも人気のあるメイク術を打ち出し、メイクアップをアートに押し上げた張本人だ。
本作は、豊富なメディア映像、写真、ホームビデオ、ケイト・モスやナオミ・キャンベル、シェールら超豪華セレブたち、家族、親友、元恋人の証言によってペイントされた、のっぽで大きな手をもつケヴィンの肖像画。監督のティファニー・バルトークは自身もメイクアップ・アーティスト経験者だけに彼の偉業を讃えながら、光を当てて影も見せ、ヌーディ系のメイクを施すように人となりを描きだす。
ケヴィンは実の親に捨てられたが愛情深い里親に引き取られ、4人の養子の長男としてルイジアナ州の田舎町で育った。少年時代の彼は母や妹たちにメイクをするのが大好きで、バーブラ・ストライサンドに夢中な男の子。つまり、ゲイだった。その時代の南部では当然、いじめの対象になる。虐げられた記憶は彼を苦しめ、「人に認められたい」という原動力となり、彼を突き動かした。
ニューヨークであれよあれよと成功していく彼の姿は、めくるめくミラーボールのよう。「誰もが美しさをもっている。僕はメイクでその人独自の美しさを引き出したい」という信条を持ち、既存の美を打ち壊して多様性の許容を訴える、彼は美の革命児だった。欠点も語られてはいるが、誰が彼を嫌いになれる? 彼自身の華やかなチャームは抗いがたいほど素敵だし、「人に認められたい」という承認欲求も完璧主義も共感できる。それにインタビューで語るすべての人が、彼を愛していたことが確かに伝わるからだ。まるであの時代のファッション業界で、彼との思い出を持ったような気持ちにさせられる。そう、名だたるファッション・アイコンたちを虜にした彼は、間違いなく稀代の「人たらし」でもあった。
ところがケヴィンのドラマは、悲痛な幕切れを迎えることになる。身体的な(そしておそらく心理的にも)痛みに追いつめられて耐えかね、鎮痛剤に依存して自らを滅ぼすのだ。たった40歳の若さで。
ケヴィンの痛みは、単に病気のせいだったのか。それとも過去のトラウマから来る自己評価の低さが原因となったのか。その真相はわからない。それでも彼の人生は、悲劇と呼ぶにはあまりにも美しい。彼の遺した永遠の美学、友人たちが浮かべる悔恨の表情が、それを物語っている。
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