ヤンヤン 夏の想い出

ALLTIME BEST

劇場公開日:2025年12月19日

解説・あらすじ

「牯嶺街少年殺人事件」「カップルズ」などで知られる台湾ニューシネマの名匠エドワード・ヤンが、台北に暮らす5人家族にそれぞれ訪れる人生の変化を静かに見つめ、2000年・第53回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した家族ドラマ。

小学生のヤンヤンは、コンピュータ会社を経営する父NJと母ミンミン、高校生の姉ティンティン、優しい祖母と一緒に、高級マンションで何不自由ない生活を送っている。幸せを絵に描いたような家族だったが、母の弟の結婚式を境にさまざまなトラブルに見舞われる。祖母は脳卒中で昏睡状態となり、父は初恋の人に再会して心揺らぎ、母は新興宗教に救いを求める。父は倒産の危機に陥った会社の経営を立て直すため、天才的ゲームデザイナーの大田と契約するため日本へ旅立つ。一方、姉は隣人リーリーのボーイフレンドと付き合いはじめるが……。

イッセー尾形がゲームデザイナーの大田役で出演。ヤン監督は2007年に逝去したため、彼が最後に完成させた長編映画となった。2025年・第78回カンヌ国際映画祭カンヌクラシック部門のオープニング作品として4Kレストア版が上映された。

2000年製作/173分/G/台湾・日本合作
原題または英題:Yi yi (A One and a Two)
配給:ポニーキャニオン
劇場公開日:2025年12月19日

その他の公開日:2000年12月16日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第53回 カンヌ国際映画祭(2000年)

受賞

コンペティション部門
監督賞 エドワード・ヤン

出品

コンペティション部門
出品作品 エドワード・ヤン
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映画レビュー

5.0 繊細かつ複雑な人間関係をめぐる名作が、レストア版でより味わい深く

2025年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

楽しい

知的

エドワード・ヤン監督は自らの脚本で、一つの家族をストーリーの主軸に据えつつも、家族内の関係性よりむしろ、家族を構成する各人と他者(異性であったり、仕事のつながりであったり)との関係の変化を並行して描き、群像劇のように展開させていく。

一家の構成は、小学生のヤンヤンを起点とすると、高校生の姉ティンティン、コンピュータ会社を共同経営する父NJ、別の会社に勤める母ミンミン、同居する祖母。身重の新婦と結婚式を挙げる叔父アディ。

ヤン監督の前作「カップルズ」では別れた男女がそれぞれ別の相手と付き合う流動的な関係が複数登場したが、本作で描かれるのは男1人女2人の相似な三角関係の3組。アディの元恋人が披露宴に乗り込んできて場の雰囲気を悪くする。NJは初恋の相手だったシェリーと偶然再会し、復縁を迫られる。ティンティンは隣に転居してきたリーリーの恋人ファティとデートに出かける。東京に出張したNJがシェリーと落ち合って若い頃のデートを回想する声に、台北の街をティンティンとファティが手をつないで歩く映像が重なるエモーショナルな名場面は、そうした関係の相似形を強調するとともに、恋の行く末を暗示してもいる。

今回の4Kレストア版により、俳優の表情や目の演技がより鮮明になり、人物の感情がより細やかに伝わるようになったが、それだけではない。カメラが窓ガラス越しに被写体を撮影したり、ガラス面や鏡面に反射した人物らを撮ったりする意匠を凝らした映像スタイルを一層際立たせる効果も生まれた。ヤンヤンの「僕が見るのは前だけで、後ろは見えない。だから真実の半分しか知らない」という言葉と考え合わせると、直接カメラに収める一面的で確立されたショットだけでなく、ガラス越しや鏡像、さらには写真やビデオ映像も加えて、人間という存在の多面性と不確かさを描き出す意図だろうか。

主要な登場人物の世代は、幼少、思春期、中年、老齢とバランスよく配され、結婚式、出産、そして葬式と、人生と家族の節目のイベントも描かれる。観る側もどんな世代であれキャラクターの誰かしらに感情移入しやすく、また年を隔てて繰り返し観てもそのときどきの人生のステージや状況によって受ける印象が変わってくる。観るたびに味わいが深まる、滋味豊かな傑作を最後に遺してくれたエドワード・ヤン監督に、改めて感謝の念を抱いた。

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高森郁哉

未評価 タイトルなし(ネタバレ)

2026年1月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
ネタバレ! クリックして本文を読む
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牛丼

4.0 一期一会の映画

2026年1月10日
iPhoneアプリから投稿

カンヌ映画祭への出品用として、日本人映画プロデューサー河合某がエドワード・ヤンに製作依頼したことが契機となって撮られた映画だという。最初は同じ台湾人監督ホウ・シャオシェンにお願いするつもりだったものの、たまたま台北にいたのがヤンだけだったことから白羽の矢が立ったという。河合としては前作『カップルズ』のような作品を期待していたらしいが、出来上がってきたシナリオはまったくの別物、ご覧のとおり非常に内省的な“家族群像劇”に仕上がっている。

主要登場人物の一人、コンピューター会社を経営するNJが、有名日本人ゲーム・クリエイター大田(イッセー尾形)との契約のため、台北と東京の二箇所で会談するシーンがあるのだが、おそらくヤンは河合Pとの製作打ち合わせ時のやり取りをこのシーンに生かしたに違いない。NJの息子ヤンヤンもそうなのだが、エドワード・ヤンの分身と思われるこの大田がこんなことを述べるのだ。「なぜ初めてを怖れるのか」

毎回毎回作風をガラリと変えることで知られるヤンだけに、(興行は計算しやすいのかもしれないが)『カップルズ』の二番煎じなど真っ平ごめんだったに違いない。イッセー尾形の台詞にはそんなヤンの強い想いが込められていたのかもしれない。全体としては今までとは全く違う雰囲気の映画にはなっていたが、大声で怒鳴り合ういい歳こいた大人たち、熱海つるやホテルの明滅する蛍光灯、未成年淫行が原因の殺人事件、(リンクレイターの『ビフォア・サンライズ』(95)や小津を意識したかもしれない)鎌倉?デートシーン…日本人受けしそうな(セルフ)オマージュカットが本作にも盛り込まれている。

なお本作は完成後、版権をめぐって台湾配給会社と折り合いがつがず、エドワード・ヤンの死後に台湾で初上映されたというから皮肉な話である。配給会社から172分の長尺についてなにかしら茶々が入ったのかもしれない。劇中のNJと大田の契約破棄にいたる顛末は、それを反映していたのだろうか。弟アンディの結婚披露宴で倒れ意識不明のばあちゃん(物言わぬ観客)に向かって話しかけるNJことヤンが「(観客に映画の趣旨が)ちゃんと伝わっているのか」気にかけるのも無理はないのである。

さて本作最大の問題はなんと言っても映画の原題『Yi Yi』であろう。後から誰かさんが付け加えた“1+2”なる副題は本稿では無視させていただくとして、日本語に直訳すると『一(いち) 一(いち)』である。日本人映画Pや台湾配給会社の干渉を「“いちいち”うっせぇなぁ」とヤンが感じていたのも事実だろうが、介護鬱にかかり山ごもりしていた奥さんミンミンに向かってNJがこう告白するシーンを覚えていらっしゃるだろうか。「君がいない間ぼくも青春をやり直す機会があった。でも結局あの時と同じような選択をしてしまったんだ」

名門女子校に通う長女のティンティンもまた、父親が昔の彼女にしたように、はたまた弟アンディができちゃった婚して昔の女を捨てたように、(外資系シングルマザーと同じ)尻軽娘の元カレにこっぴどいフラれ方をするのである。あの大田でさえも「私はマジシャンではない。全ての手札の並びを覚えてるだけだ」とトランプマジック(斬新な映画演出)のネタバレをするのである。『恋愛時代』製作当時からエドワード・ヤン自身の離婚問題が泥沼化していたようで、その時の暗澹たる心境を吐露したシークエンスだったのかもしれない。この映画に限らず、(アンディ叔父さん&ヤンヤンの復活劇を含め)現実の人生には同じような出来事が、世代を跨ぎなから永遠と繰り返されるのである。

「夢と現実は違うんだ」とファティはティンティンに叫んでいたが、(人間が変化を怖れるために)同じようなことが繰り返される業のような世界が現実ならば、せめて夢=映画では「ばあちゃんも知らないはじめてのもの」をみんなに見せて楽しませてあげたいと、廊下を飛び回る蚊や見ず知らずの人の後頭部に座する守護霊をカメラに映そうとしていたヤンヤン。それは、誰も見たことのない“一期一会”の映画を撮ることに生涯を捧げたエドワード・ヤンとどこか似ているのである。

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かなり悪いオヤジ

5.0 カメラは動かないのに芳醇な世界観

2026年1月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

4Kリマスター版を鑑賞。
派手な話じゃないけど見入ってしまう3時間。
「カップルズ」の面々がティンティンと絡むシーンは胸熱でした。
名作ですね。

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masa