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なんだかボロカスにいわれがちな本作ですが。
個人的には、そこまでひどい映画とは思わなかったですけど……。
でも、まあいろいろ問題はあるかな?(笑)
これだけ一生懸命作り込んだアニメ映画で、「2.5点」というのも、なんぼなんでも可哀そうな気はするが、それだけ観た人からは支持されなかったってことなんだろうな。
評価が辛くなる最大の要因として、
話の基本設定が腑に落ちないこと。
そこは、僕も認めざるをえない。
現実世界を電脳世界に置き換えようとする架神傑の陰謀それ自体、意味も理屈もさっぱりわからないけど、そこはSFアニメなのであまり問うても仕方がない。『SAO』の茅場晶彦の亜種みたいなもんだと思って観ればいいのだろう。
データ体がオリジナルを上書きして本体に成り代わろうとする流れも、要は『サマータイムレンダ』の「影」みたいなもんで、ロジックはよくわからなくても体感的に納得することはできる。いわゆる「ドッペルゲンガー」ものの定番だ。
問題は、なぜこの大がかりな世界書き換えの試みのなかで、「栞だけが」スマホの世界に閉じ込められたのか。
閉じ込められるに際して、なぜ「二人の栞」に分裂したのか。
両者の関係性は、具体的にはどういうものなのか。
なぜ「1億いいね」もらったら、成り代われるのか。
というかSHIORIは、何が目的で億バズを目指しているのか。
(「カフェを開く」ってのはなしでねw)
このあたりの、「観客の大半がわかった気にならないと、観終わっても釈然とした気持ちになれない」根幹の部分が、ふつうに観ていておそらくみんな理解できていない。
そこは、やっぱりとても不親切な映画だと思う。
まあ、河森らしいっちゃ、河森らしいんですよ。
今までだって、河森正治が『マクロス』や『アクエリオン』でそこまで「筋の通った」話を作ってきたかというと、全然そんなことはないわけだし。
とくに本作終盤の、勢いだけでなんか壮大なことやってて唐突にロボ戦があって、しっちゃかめっちゃかになったけどどうでもいいか、みたいな楽天的なノリは、本当に『アクエリオン』そっくりで(笑)、むしろ「河森にしか撮れない映画」になっているともいえる。
ただなあ。
やっぱり、話の中核にある「分裂」と「合体」のロジックがここまでよくわからないと、ヒロインに共感するのはどうしても難しくなるし、ストーリーもなかなか頭に入ってこなくなるよね。
というか大前提として、作中の栞はなんで自分がスマホの迷宮に閉じ込められたかもわからないし、なんで自分が分裂したかもわからない。その答え合わせは、「脱出」という第一義の目的と同じくらい重要なことだと思うんだけど、そこが最後まで観てもよくわからない。
SHIORIのほうの行動原理も、よくわからない。
なぜ、彼女は「億バズ」を目指すのか。
表面的に与えられる「理由」としては、データの世界から来たSHIORIが、億バズしたら現実存在に成り代われるみたいなことが言われるのだが、いったい誰が決めたルールなのそれ? 「1億」って具体的な達成基準を設けたのは、どこの神様なわけ? なんでSHIORIはそのルールを知っているんです?
しかも、それって明快に『サマレン』の理屈でいえば、「『栞』という存在に対しては超敵対的な行動」だよね。でも一貫して、この物語で「偽物が本物に成り代わろうとする邪悪な試み」の部分はほとんど強調されないし、栞とSHIORIは完全に「なあなあ」だし、なんならSHIORIは「栞のためにやってるのに」とうそぶき続けている。
いったいこの「表で解き放たれているSHIORI」は、何がやりたいのか。この世界をどうしたいのか。そこがいまひとつ伝わってこない。
「内気」な私が閉じ込められて、
「勝気」な私が「表で」好き勝手する。
「やめて」とは思うけど「うらやましい」。
内気な自分を変えたい。殻を破りたい……。
基本そういうお話であることは理解できる。
根本にある「やりたいこと」はよくわかる。
でも、それを物語に「落とし込む」やり方が、
あまりに不器用すぎる。
「スマホの迷宮から脱出する」という大命題と、親友の倉科希星との確執や彼女を迷宮から「救う」話の絡ませ方も、混乱に拍車をかける。
希星が黒魔術やってたのは結局、迷宮の出現に関係があったの? なかったの?
親友の自分に対して黒魔術で呪いをかけてた件について栞はスルーでいいのか?
結局、話の超重要なポイントと思われた「囚われていた女の子」は希星じゃなくて、「敵意を示しながらついてくる黒ヤギのスタンプ」も希星じゃなかったって僕は理解したんだけど、それどういうこと?? 栞の迷宮での目的から行動まで、すべて誤認から生じたただの「空回り」だったってこと??
あとなあ。言いたくないけど、やっぱキャストはねえ。
別にキャスト本人を責めるつもりはないんだけど。
なぜなら、河森のオファーを受けただけなんだろうから。
本人たちは悪くない。出ちゃったのは仕方ない。
でも、さすがにあの演技と声は、ない。
長編アニメ映画として技術的にあまりにあんまりだし、「そのせいで」話に入り込めなかった観客が多数いたとすれば、やっぱり作品を害している。
語尾をあげたら声がかすれるヒロインとか、今までいたことがあるんだろうか?
原田泰造だけは頑張っていたが(エンドクレジットまで気づかず。あまり合っていたとは言い難いけど)、残りのメインキャスト4人は正直きつかった。
僕の激推しの伊東蒼ちゃんも、今回はぱっとしなかったなあ。
というか、河森は「これでいい」「この声がいい」「この声でないとダメだ」って本当に思って選んだの?? 音響監督に一任していたら、むしろ絶対に出てこないキャスティングだし仕上がりだと思うんだけど。
― ― ― ―
ここまであまりいいことを書いていないが、最初に表明したとおり、本作のやりたいことやノリ自体嫌いではないことは、改めて強調しておきたい。
まず、本作の目的意識には共感しかない。
SNSにおける承認欲求の暴走や、顔の見えない「ネット民」が暴徒化する恐怖、いまのスマホに支配された人々の在り方に対する警戒心や拒否感は、よーくわかるし、全幅の共感もある。
僕は会社で強要されるまでガラケーを持たなかった人間だし、皆さんがスマホに乗り換えてからも5年以上はガラケーを使っていた人間だ。3Gのサーヴィスが終了するというので仕方なくスマホに乗り換えたけど、たぶん僕が会社でガラケーを使っていた最後の一人だったと思う。
SNSは(映画.comに書き込む以外は)やったことがないし、Twitter(Xだっけ?)にもInstagramにもアカウントを持っていない(Facebookは仕事の都合上やむなくアカウントをとったが、当然休眠状態。野鳥の出現情報を検索するためだけに用いている)。
要するに、僕はSNSで「つながる」ことにも「表現する」ことにも非常に奥手だし、いまのSNSの状況についてはとても懐疑的に思っている。名もなき大衆が寄ってたかって何だかんだ炎上させる今の不健全な状況のことも、純粋に不愉快に感じている。
なので、河森がこの話で扱っている「危機感」は共有しているし、少なくとも「SNS中毒を指摘されるとついイラっと来て、反発を感じるタイプ」ではまったくない。
あと、スマホ内の幻想世界の描写は案外良かったと思う。
スタンプたちが寄ってきたり襲ってきたりするのも、なんか面白かったし。
ミジンコのスタンプとか、おそってくるいいねの指とか、邪悪な紙兎ロペみたいな小森とか、スタンプは2次元キャラだからドアの隙間から侵入できるとか、アイディアは豊富で、閉じ込められている空間の美術表現もじゅるっとした感じで雰囲気があった。
「スタンプにされる」表現が、スクラップマシンで物理的にぺちゃんこにされるのもちょっと可笑しかった。むかしの刑事ドラマでは、よくあの手の機械で車ごと裏切者がキューブ状にスクラップされてたもんです。
総じて「劇場用長編アニメ」としての精度やクオリティは十分に保っていたと思う。
これでもう少し、ヒロインの危機と苦悩に観客が共感できるストーリーになっていれば、細かいアラなどそんなに気にならなかったと思うんだけどね。
でも、こうやって感想でいろいろくさされるのも、まさに出演者や作った人たちにとっては「世間の誹謗中傷」に他ならないわけで……。
みなさんのこころが割れて、スマホの迷宮に閉じ込められたりしませんように!
― ― ― ―
●冒頭、作曲されている音楽の拍と心音がオーバーラップして、画面とも同調していくあたりはとても良かった。
●制服の裾結びって、おじさんイメクラにしか見えなくて……(行ったことなんかないよ!)
●女子トイレに様子を観に行くの、ふつうは女性の先生呼ぶよね。
●横浜の街(とくにみなとみらい周辺)が全面的に舞台に採用されていて、神奈川フィルの演奏会が終わったあと、よくこの辺は散策するので、見知った場所も多くて楽しかった。なんか山の手の坂道のある風景がまんま尾道みたいになってたな。
●迷宮に落ちた少女と兎の組み合わせは、まさに『不思議の国のアリス』なんだな。
●パンフを買わなかった代わりにHPを見ていたら、杉田が「今回の河森監督作品から漂うアルジュナ味。大好物です。だから、大きな声で何度も名前を呼ぼうと思います。」とか言ってて、この人は本当にさすがだと感服。杉田はガチでオタクの鑑だ(中村もだけど)。
●ロボ戦は河森アニメのセルフパロディとして、普通に笑った。
歌ってるの、声聞いただけで福山芳樹だし。
いきなりパイルダーオンみたいなこと叫んで車ごと合体する悪の親玉www
切迫した状況下で、あんた捨て身のギャグすぎるだろ。
アスラーダの出てくるサイバーフォーミュラって福田己津央監督だったと思ったけど、カーデザインのほうを河森が担当したから、出して許されるのか。
●メインキャストは???だったが、サブキャストの豪華さはそれだけネタ感たっぷり。キャスト表に載っている速水奨(マクロス)、坂本真綾(マクロスF)、杉田智和(アクエリオン)以外にも、ワルキューレご一行とか『マクロスΔ』組あたりの主演陣が総出でモブで出ていて壮観。ざーさんとツダケンってなんだっけと思ったら『パンドーラ』か!!
●幼馴染の山田くん、わかったような顔でいろいろいっちょ噛みして、独りだけ宮崎駿の少年キャラのような活躍ぶりを示しているが、腕はへし折られるわ、一升瓶でぶん殴られるわ、あげくラストでまた一本背負い喰らわされるわ、まるで報われていなくて草。
いや、ギャグ落ちなのはいいんですが、栞は幼少時にやり過ぎて相手の腕を柔道技で折ってしまったのがずっと「トラウマ」で、だから昔から柔道をやってきたことや柔道の家に生まれたこと自体が嫌で、そんな自分が柔道技の動画でバズっちゃったのが嫌で嫌でしょうがなかったから、つい異世界転生しちゃったんじゃなかったの?? そこすげー大事なところじゃん!!
なんでまた、おんなじことやってるのが落ちなんだよ。
それともトラウマは克服したし、告白してきた相手だから今後は何度でもケガさせていいって話かな。
こういうとこなんだよね、河森さん。
●ちなみに、この映画を僕はTOHOシネマズ新宿のスクリーン5で観たのだが、観ている間、ずっと椅子が微妙に揺れたりビリビリ振動したりしてて、最初地震かと超ビビった。
そっとスマホの画面開けても何にも通知来ていなくて。で「ああそうか、昔あった銀座シネパトスとか新橋文化みたいに電車が通ったら揺れるのかな」とかぼーっと思っていたのだが、考えてみたらここ3階だし。
じつはこれ、「隣」にあるMX4D設備のあるスクリーン2での座席の振動が影響してるんだってね。軽く欠陥建築じゃん。
うーん、今回は観たのがアニメだからまだいいけど、これもっと真面目な文芸映画とかだと結構怒る人いるんじゃないのかね? あんまり揺れるから。俺だんだん気持ち悪くなってきたもん。