【「3つの鍵」評論】老境に入ったナンニ・モレッティのたしかな成熟が看取される集大成的な逸品
2022年9月18日 10:00

ナンニ・モレッティは、かつて<イタリアのウッディ・アレン>と称されたこともある。時には、自ら主演し、自虐的なユーモアとアイロニーを込めて、同時代の権力者やローマ法王を痛烈に風刺したコメディを撮るかと思えば、エッセー・ムーヴィー風なタッチで、自伝的なファミリー・メロドラマの世界を紡いで見せたりもする。
ところが、ナンニ・モレッティの六年ぶりの新作「3つの鍵」は、お得意のシニカルな笑いを完璧に封じ込め、ローマの高級アパートに住む三つの家族の抱える光と闇をじっくりと丹念に焙り出してゆく。
原題の「Tre piani」とは三つの階の意で、3階にはヴィットリオ(ナンニ・モレッティ)とドーラ(マルゲリータ・ブイ)の裁判官夫婦と息子アンドレア(アレッサンドロ・スペルドゥティ)が住んでいる。2階には妊婦のモニカ(アルバ・ロルバケル)がいるが、夫は長期出張中だ。1階には事務所を兼ねて若い夫婦のルーチョ(リッカルド・スカマルチョ)とサラ(エレナ・リエッティ)が7歳の娘と住んでおり、向いには老夫婦が住んでいる。
冒頭、モニカが陣痛で深夜の路上へ飛びだすと、泥酔したアンドレアが中年女性を車で跳ねて、そのまま猛スピードで一階の事務所に突っ込む光景を目撃する。映画は、この血塗られた惨劇をきっかけにして、三つの家族を次々に見舞う、痛ましい悲劇の行く末を10年という歳月をかけて、あたかも定点観測のような悠然たる語り口でドキュメントしてゆくのである。
とりわけ、なんとか罪過を逃れようとするアンドレアが、醜悪なエゴイズムと幼児性をむき出しにして父親に殴りかかるシーン、さらに、息子に心底、愛想を尽かしたヴィットリオがドーラに究極の選択を迫る決定的な瞬間は、ウッディ・アレンが崇拝してやまないイングマール・ベルイマンの「ある結婚の風景」(1974)を想起させる酷薄さで忘れがたい印象を残す。
たえず精神を失調した母の幻影に怯えるモニカ、向かいの老人に娘をレイプされたという妄想に囚われて暴力を奮い、果ては、あろうことか彼の孫娘と寝てしまうルーチョ。それぞれの家族は決して深く交差することなく、ただ、統御しがたいオブセッションに突き動かされ、あてどない地獄めぐりを強いられているかのようだ。そんな耐えがたい苦痛を癒す、10年という赦しの“時間”の刻印をさりげなく掬い取ってみせたのが、ラストで、マルゲリータ・ブイが浮かべる、得も言われぬ絶妙な表情ではないだろうか。「3つの鍵」は、老境に入ったナンニ・モレッティのたしかな成熟が看取される集大成的な逸品である。
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