【「ブラック・ウィドウ」評論】アクション良し、ドラマさらに良し。最後のピースを描き尽くした爽快作
2021年7月18日 17:00

つい今しがた劇場で本作を観終わり、胸の内側は充足感でいっぱいだ。まさに、ずっと待ち望んでいたピースがようやく揃ったという感じ。世界を股にかける俊敏なアクションとともに、これまで語られなかった我らがヒロインのバックグラウンドが、ここには絶妙な密度と熱量とで刻まれている。
90年代、オハイオ。物語はこの地で仲睦まじく暮らすナターシャとその家族の息詰まる逃亡劇から幕を開ける。執拗に追いかけてくる黒塗りの車。そして深手を負いながらのアメリカ脱出----。
これ以上はすでにネタバレになりそうなので伏せておくが、一つ言えるのは、食卓を囲んだり、座席に乗り込む家族の情景が後々、効果的に活きてくるということ。観客の頭にインプットされたこの基本動線は、22年後に展開する本筋においても、シンプルながら力強い主題となって繰り返され、物語に勢いとうねりを与えていく。
そして興味深いのは、この映画が時系列的に見て「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」の直後に位置する点だろう。すなわち作り手は、主人公のエピソード0でもクライマックスでもなく、思いがけない中間地点にこそ「描くべき物語」を見出したことになる。
思えば、ブラック・ウィドウはいつも主義主張の異なるアベンジャーズの面々を地道に繋ぎ、固く結束させ続けた人だった。それでいて弱音や言い訳はいっさい口にせずいつもクールに危険へ飛び込む。彼女にはなぜそれができたのか。その行動原理や魂の芯をなすものが、本作には軽やかに集約されているのだ。
その過程で特に胸を掴まれるのは、最終コーナーで投入される人間模様に他ならない。笑えて、しみじみさせて、見たこともないナターシャの表情がいっぱいで・・・俳優陣もみな心を一つに、素晴らしいコンビネーションを見せる。この空気感のなんと魅力的で味わい深いことか。
今回抜擢されたケイト・ショートランド監督は、「さよなら、アドルフ」(12)でナチスの思想に染まった少女が少しずつ呪縛から解放されていく様子を瑞々しく描いた人。そんな優れた才能による采配ぶりとスカーレット・ヨハンソンのこだわりあってこそ、この集大成は見事な品質へと進化を遂げた。
地球を救うスペクタクル巨編でも、お涙頂戴のセンチメンタルな感動作でもないが、まさにブラック・ウィドウというキャラクターがどこからやってきて、どこへ向かうのかを象徴する、どこまでも凛とした表情に満ちた爽快作と言えよう。
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