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2026.2.3 字幕 アップリンク京都
2022年のスイス映画(102分、G)
1989年に実際に起きた「フィッシュスキャンダル」の渦中にいる潜入警察官を描いたコメディ映画
監督はミヒャ・レビンスキー
脚本はプリニオ・バッハマン&バルバラ・ゾマー&ミヒャ・レビンスキー
原題は『Moskau Einfach!』で当時の政治的スローガンでそれを抱える者を指す言葉、直訳は「モスクワへの片道切符」、英題は『One Way to Moskow』で同じく「モスクワへの片道切符」という意味
物語の舞台は、1989年10月19日のスイス・チューリッヒ
捜査官として、日々業務にあたっているヴィクトール(フィリップ・グラバー)は、政権転覆を狙う反乱分子の監視を行なっていて、とある劇団の不審な動きを観察していた
劇団員たちに近づいて情報を収集し、そのメンバーの相関関係を洗い出していく
そして、ようやく全貌を突き止めたと思った矢先、ヴィクトールは上司のハンス(マイク・ミュラー)から「働きすぎ」との理由で捜査から外されてしまった
その仕事は同僚のベアート(セバスティアン・クレーヘンビュー)が引き継ぐことなく、クリスマスまで戻って来なくても良いと言われてしまう
だが、ハンスは「エキストラ募集」していることを知っていて、ヴィクトールに潜入捜査をしろと命じた
当初は固辞していたヴィクトールだが、必要に迫られて、潜入捜査を開始することになった
ハンスは彼に「船乗りのヴァロ」という設定を与え、ヴィクトールはヴァロになりきって、劇団のエキストラとして劇団内に入ることになったのである
ヴィクトールは、当初はエキストラの警官役だったが、脇役のアントニーオの俳優が怪我をしてしまい、急遽代役を務めることになった
その役を欲していたのは同じエキストラのレト(ファビアン・クリューガー)だったが、演出家のハイマンはヴィクトールで行くと決める
そうして、本格的に芝居をすることになったヴィクトワールは、その過程で女優のオディール(ミリアム・シュタイン)と距離を縮めていく
彼女のことも監視対象だったために調べを進めていき、それをハンスに報告するものの、彼は「オディール・ヨーラが偽名」と言い、彼女はレーマン大佐(ピーター・イェックリン)の娘だと判明する
軍の要人の娘が活動家と接点があるというのはスキャンダラスなことだったが、この時あたりから、ヴィクトールは自身の行動に疑問を持ち始めるのである
映画は、ヴィクトールが劇団と関わりを深める様子を描き、オディールに心を奪われていく過程を描いていく
そして、2人で過ごす時間も増え、双方の部屋に出入りする関係になるのだが、そこでヴィクトールの正体が彼女にバレてしまう
ヴィクトールは仕事を辞めることを決意するものの、内部事情を知る彼を野放しにはできない
そこでハンスは彼を資料室に閉じ込めて軟禁状態にするのだが、同僚のベアートが彼を解放し、ヴィクトールは劇団の元に戻ることができたのである
映画では「フィッシュ・スキャンダル」に関わった人々を描いていて、劇中内でベルリンの壁の崩壊、スキャンダルの露見というものが行われていく
ヴィクトールは警察の監視社会から劇団という世界に飛び込んだことで自分自身を見つめ直すことができ、心の従うままに生きていくことになった
警察であることがバレた後、オディールはヴィクトールとの距離を空けていたが、千秋楽の演技を終え、何も言わずに去ろうとしたヴィクトワールを繋ぎ止めることになった
彼女自身の何かが変わったというよりは、ヴィクトールが演劇に打ち込んでいく日々を重ねていくことによって、本当の彼というものを取り戻したのだろう
そうして迎えた大団円は、時代の移り変わりとともに、甘い余韻を残すことになったのである
いずれにせよ、基本は恋愛映画であり、この特異な時代において、監視者と対象者だったという関係性は特殊なものだった
そんな中で、対象者に恋をするのがヴィクトールという人間で、国家転覆を狙う懐疑的な視点をもってしても、恋の炎は強烈だった、と言えるのだろう
映画は、時代背景がわからないと読み取りづらいものがあるので、せめて「冷戦下のスイスがどんなポジションだったのか」とか、「ロシアとの距離感」というものは知っておいた方が良いと思う
劇中劇がメタ的な要素になっているが、ヴィクトールが劇の主人公である「女性であることを隠して公爵に仕えているヴァイオラ(男装時はシーザリオ)」を演じているわけでもない
それでも、身分を隠したことで恋愛が拗れるという要素はあったので、あの場面(アントーニオがシーザリオとオーシーノの決闘を止めるシーン)を知る上でもあらすじを追っておくのは悪くないのかもしれません