美と殺戮のすべて

   121分 | 2022年 | R15+

「シチズンフォー スノーデンの暴露」で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、写真家ナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして彼女が医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を追及する活動を追ったドキュメンタリー。

ゴールディンは姉の死をきっかけに10代から写真家の道を歩み始め、自分自身や家族、友人のポートレートや、薬物、セクシュアリティなど時代性を反映した作品を生み出してきた。手術時にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されて中毒となり生死の境をさまよった彼女は、2017年に支援団体P.A.I.N.を創設。オキシコンチンを販売する製薬会社パーデュー・ファーマ社とそのオーナーである大富豪サックラー家、そしてサックラー家から多額の寄付を受けた芸術界の責任を追及するが……。

2022年・第79回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。第95回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。

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映画レビュー

牛津厚信

PRO

いま彼女を力強く突き動かすもの

牛津厚信さん | 2024年3月27日 | PCから投稿

本作はまず、世界的に名高い写真家ナン・ゴールディンの現在地を映し出す。そこには「オピオイド危機」をもたらした元凶、大富豪サックラー家に対して仲間と共に抗議の声を上げる彼女の姿が。もともとサックラー家は美術界への支援も厚く、名だたる美術館の有力なスポンサーである。だがゴールディンはその強大な影響力にいっさい怯まず、血塗られた支援金に頼る美術館に対して「目を覚ませ」と訴える。彼女が声を上げ続けるのは何故なのか。その原動力はどこから来るのか。命題への答えは半生を紐解くことで見えてくる。育った家庭環境。最愛の姉。カルチャーの只中で仲間や自身を被写体にしてシャッターを切り始めたこと。80年代、仲間が次々とドラッグ中毒やエイズで亡くなったことーーー。あらゆる記憶と経験はゴールディンの血となり肉となって生きている。その点と線が繋がっていく様に決意が垣間見える。静謐な中に揺るがぬ芯を併せ持った一作である。