映画レビュー
PRO
いま彼女を力強く突き動かすもの
牛津厚信さん | 2024年3月27日 | PCから投稿
本作はまず、世界的に名高い写真家ナン・ゴールディンの現在地を映し出す。そこには「オピオイド危機」をもたらした元凶、大富豪サックラー家に対して仲間と共に抗議の声を上げる彼女の姿が。もともとサックラー家は美術界への支援も厚く、名だたる美術館の有力なスポンサーである。だがゴールディンはその強大な影響力にいっさい怯まず、血塗られた支援金に頼る美術館に対して「目を覚ませ」と訴える。彼女が声を上げ続けるのは何故なのか。その原動力はどこから来るのか。命題への答えは半生を紐解くことで見えてくる。育った家庭環境。最愛の姉。カルチャーの只中で仲間や自身を被写体にしてシャッターを切り始めたこと。80年代、仲間が次々とドラッグ中毒やエイズで亡くなったことーーー。あらゆる記憶と経験はゴールディンの血となり肉となって生きている。その点と線が繋がっていく様に決意が垣間見える。静謐な中に揺るがぬ芯を併せ持った一作である。