レオノールの脳内ヒプナゴジア

   99分 | 2022年 | G

頭部を強打してヒプナゴジア(半覚醒)に陥った元映画監督が、脳内でアクション映画の世界を駆けめぐる姿を描いたフィリピン発の奇想天外コメディ。

かつてフィリピン映画界で活躍した女性監督レオノール・レイエスは、引退して72歳になり、借金や息子との関係悪化に悩む日々を送っていた。ある日、新聞で脚本コンクールの記事を目にした彼女は、未完だったアクション映画の脚本に取り組むことに。そんな矢先、レオノールは落ちてきたテレビに頭をぶつけてヒプナゴジアに陥り、脚本の世界に入り込んでしまう。息子は必死に母を現実の世界へ引き戻そうとするが……。

フィリピン人として初めて英国ロイヤル・ナショナル・シアターで公演を行った名優シェイラ・フランシスコが、主人公レオノールをチャーミングかつエネルギッシュに演じた。監督・脚本はマニラ出身の新鋭マルティカ・ラミレス・エスコバル。2022年サンダンス映画祭ワールド・シネマ(ドラマ)部門で審査員特別賞を受賞。

全文を読む

映画レビュー

高森 郁哉

PRO

予算の少なさを奇想と映画愛で補った好作

高森 郁哉さん | 2024年1月26日 | PCから投稿

多くの過去作を連想させる映画だ。脳内世界と現実を行き来したり、創作世界と現実が干渉しあったりする感じは、当然ながら「脳内ニューヨーク」というずばりの邦題の監督作もあるチャーリー・カウフマンが脚本を書いた「マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」「エターナル・サンシャイン」や、ウィル・フェレル主演作「主人公は僕だった」などを思い出させる。あるいは、アクションやサスペンスではめったに主人公にならない太めの中高年女性が、災難や事件、家族のトラブルなどに直面するという点では、同じフィリピン映画の「ローサは密告された」のほか、昨年日本公開のメキシコ映画「母の聖戦」などに近い。

フィリピンで1980年代頃に多数製作されたB級アクション映画のオマージュにもなっているそうで、あいにく該当するような作品は観ていないものの、同じ時期の邦画もそうだったように、おそらくハリウッド発や香港発の娯楽活劇の影響を受けた低予算映画が量産されたのだろうなということが本作から間接的に伝わってくる。監督・脚本のマルティカ・ラミレス・エスコバルは1992年生まれの31歳だそうで、若い世代の女性が30~40年も前の活劇に刺激を受けている点も感慨深い。

不条理な笑いもいくつかあって、レオノールの脚本の世界におけるヒーローのロンワルドがストリートで唐突に踊り出す場面が特におかしかった。