ダム・マネー ウォール街を狙え!
クレイグ・ギレスピー監督、ポール・ダノ主演の実録エンターテインメント
SNSを通じて団結した個人投資家たちが金融マーケットを席巻し社会現象を巻き起こした騒動の実話を映画化。
映画レビュー
PRO
下層の意地と反逆に鼓舞される。
村山章さん | 2024年2月29日 | PCから投稿
富裕層に楯突いた名もなき庶民たちの胸のすくような実話、という体裁からして、いかにもハリウッド好みの題材に思えるし、草の根の運動が大きな波を起こすカタルシスも、実話ベースであることを思えば、ハリウッド的な単純化から逃れてはいない気がしてしまう。しかしそれでもなお、この映画が描く反骨精神を応援しようという気持ちには同調するし、群像劇で登場人物が多く、ひとりひとりの掘り下げに時間を割いていないからこそ、誰かひとりに肩入れするのではなく、ムーブメントに自分も参加したような気分が味わえる。その意味では、今必要な下層の人間を鼓舞してくれる役割をクレバーに果たしている作品ではないだろうか。『ラースとその彼女』『アイ、トーニャ』のクレイグ・ギレスピー監督のことが好きすぎて、ちょっと評価が甘くなっている気もするが、まあそれも監督の功績が為せる技ということで。
PRO
題材に誠実に向き合った作りだが、それゆえの物足りなさも
高森 郁哉さん | 2024年2月5日 | PCから投稿
IT系ニュースサイトで翻訳に携わってきた関係で、「ゲームストップ株騒動」は一応覚えていた。とはいえリアルタイムで追いかけていたわけではなく、公聴会が開かれるほどの大問題に発展してからの報道で、それまでのおおよその経緯を知った程度だが。そんなわけで本作を観ることにより、主人公であり騒動を牽引したキース・ギルの動機や、彼の動画配信やRedditの書き込みを通じて賛同した低所得の若年世代が手数料なしの投資アプリ「ロビンフッド」を通じてゲームストップ株を買い支え、巨額の空売りを仕掛けていたリッチな大口投資家らを慌てさせる過程などを追体験する感覚でよく理解できた。
本編中に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の映像の引用があったが、同作や「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」を撮ったアダム・マッケイ監督の作風と比較すると、金融市場を通じて富裕層が庶民から収奪する構造を問題提起するスタンスは近いものの、ユーモアやサスペンスで盛り上げる娯楽成分が、この「ダム・マネー ウォール街を狙え!」にはやや足りない。誠実に向き合ったことは伝わるのだが、まじめゆえに物足りないというか。コロナ禍の期間に撮影されたため、登場人物の大半がマスクを着けていたり、電話やビデオ会議で会話するシーンが多いなど、あの時期特有の閉塞感が漂っているのもすっきりしない一因だろう。
ゲームストップ店舗の上司をデイン・デハーンが演じていて、ほぼマスク着用のためカメオ出演みたいな感じになっているのはちょっと笑えたが。
PRO
わかりやすく、高揚と狂騒に満ち、語り口にも勢いがある
牛津厚信さん | 2024年1月31日 | PCから投稿
我々の暮らしが金融市場と不可分な以上、『マネー・ショート』(15)のような作品は何度となく出現し続けるのだろう。『ダム・マネー』にも少なからずあの語り口やノリに似たものがある。すなわち、観客が現在地の足場を確認しながら、それでいて決して専門知識的な”置いてけぼり”を喰らうことなく身を投じていける狂騒的でいて高揚感あふれるジェットコースターのような空間だ。物語も明快。「ゲームストップ」という銘柄をめぐるヘッジファンドの空売りと、それに目をつけて小口投資家に抵抗を呼びかけたローリング・キティの闘い。ファンドの当初の読みは虚しく、株価はグングン上がる。コロナ禍という時代背景もポイントで、皆がフィジカルに集結し触れ合う「場」を失った中で育まれる一体感だからこそなおいっそう胸を打つ。決して誰しもが担えない奇妙で人間臭くもあるカリスマを、ポール・ダノがごく自然体でこなしている姿には目を見張るばかりだ。