映画レビュー
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自主製作映画の極み、作家の内から溢れ出た結晶
和田隆さん | 2022年9月28日 | PCから投稿
他人とのコミュニケーションがさらに希薄になった時代に、必然的に産み落とされた傑作か、それとも問題作か―。田中大貴監督が製作・脚本・撮影・照明・編集・特殊造形・VFXも兼任した本作は、自主製作映画の極みの一本と言え、作家の内から溢れ出た結晶である。
ボカロ的な音楽とともに、劇中のアニメ作品はそれだけでしっかりと世界観が構築されている。また殺人描写や、過去の記憶、現実世界の日常の映像が、赤と青を基調とした色彩とともに押し寄せ、見る者を圧倒する。その一方で、懐かしい記憶や、静寂の風景と音楽、そして2人のどこか悲しげでありながら、愛を乞うような表情が、それまでの狂気との対比になっている。
楢葉ももなが長編映画初主演とは思えない存在感で舞を演じ、殺人鬼の多面性を芳村宗治郎が繊細に演じ分けている。振り切ったスプラッター映画としてだけでも充分濃度は高いが、ラブストーリーの形をとりながら、現代社会の壊れた心、稀薄化した人間関係、そして現実世界での本当の自分とは何なのか、という田中監督の真の思いが、見終わった後に響いてくるだろう。