ボーはおそれている

   179分 | 2023年 | R15+

アリ・アスター監督とホアキン・フェニックスがタッグを組んだスリラー

怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描く。

「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたスリラー。

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。

共演は「プロデューサーズ」のネイサン・レイン、「ブリッジ・オブ・スパイ」のエイミー・ライアン、「コロンバス」のパーカー・ポージー、「ドライビング・MISS・デイジー」のパティ・ルポーン。

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映画レビュー

村山章

PRO

不安症にとっては居心地のいいファンタジー。

村山章さん | 2024年2月29日 | PCから投稿

ネタバレ

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牛津厚信

PRO

尽きることのない悪夢的イマジネーションの連鎖に心酔

牛津厚信さん | 2024年2月17日 | PCから投稿

生きることは悩ましくおそろしい。どうやって生まれたのか、いかに毎日を生きるか、家族の問題にどう向き合うか。そんなことを考えだすともう頭がおかしくなりそうだ。過去のアスター作品からやや趣向を変え(でもやっぱり”家族”が関係するのだが)、本作はホアキン扮する中年男が抱える”おそれ”をじっくり我々に突きつける。ある意味、カフカ的でもあるし、フロイト的、ギリシア悲劇的とも言いうるだろう。序盤のアパート生活のカオスな日常描写には勢いがあり、声を上げて笑ってしまうシュールさに溢れ、目が離せなくなる。そこからいざ帰郷というモチーフが起動するも、案の定、不条理の鎖が足に絡まりボーはなかなか帰れない。この一連の物語をどう解釈すべきか。私は途中から意味に囚われすぎるのをやめた。水辺の小舟に揺られ、アスター流の”おそれ”巡礼を体験するかのように、悪夢的ながら美しさに満ちたイマジネーションの連鎖を心から楽しんだ。

高森 郁哉

PRO

ずっと浸っていたい、妙に笑える悪夢のような旅

高森 郁哉さん | 2024年2月16日 | PCから投稿

アリ・アスター監督作品については、長編第1作「ヘレディタリー 継承」の独創的な世界観とホラー描写に震撼し驚喜したが、カルト教団の閉鎖的コミュニティーを訪れた若者たちを描く2作目「ミッドサマー」はストーリーの独創性という点でやや期待外れだった。そんな経緯もありこの3作目は期待と懐疑が相半ばする気持ちで臨んだが、結論から言えば「ヘレディタリー」を超える一番のお気に入りになった。

不安症の主人公ボー(Beauの発音は「ボウ」と表記するのが正確で、字幕もそうなっているのになぜタイトルと不一致なのだろう?)に次から次へと災難が降りかかり、母親の葬儀に出るための旅もトラブル続きでなかなか目的地にたどりつけないのだが、展開が予想外すぎて笑えてしまう(特にバスタブと屋根裏の両シーンで爆笑した)。「ミッドサマー」にもユーモア要素はあったが、本作は格段にいい。ホアキン・フェニックスによる不安と困惑と恐怖と苦痛の演技が絶品で、アスター監督の演出との相乗効果もあり、地獄めぐりでありながらドタバタ喜劇のようにずっと楽しめる、飽きることのない2時間59分。監督の次回作「Eddington」にもホアキンの出演が決まっているようで、今から楽しみでならない。