あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
汐見夏衛の同名ベストセラー小説を福原遥と水上恒司の共演で映画化
戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高生と特攻隊員の青年の切ない恋の行方を描くラブストーリー。
映画レビュー
PRO
逃げ出す特攻兵のエピソード
杉本穂高さん | 2024年2月29日 | PCから投稿
戦争を描く態度はどうあるべきか、という観点でSNS上では物議を醸していた作品だが、戦争を美化しているかといえば別にしていなかった。戦意高揚的な側面はなく、むしろ主人公の女子校生に「無駄死に」というキーワードを頻繁に言わせて、特攻を美化するような視点で描かれているとは思わなかった。
むしろ、特攻に選ばれた若い兵隊の一人が脱走しようとするのを、みんなで見逃すエピソードが心に残った。田舎に愛する人がいるから見逃してほしいという彼の願いをみんなで聞き入れる。その彼が現代の特攻博物館で、病気で出撃できなかったことにされていた。当時、本当のことは誰も報告できなかっただろうし、上層部的にも都合が悪かったんだろう。博物館に真相が書かれていない、つまり、歴史の記述には嘘があるということを踏まえている作品でもあった。
タイムスリップものは歴史改変に接続されやすいが、この主人公は過去を変えることは全くできず、たまたま当時の若者を愛し、理不尽に奪われる体験をする。大きな歴史のうねりに巻き込まれる無力な個人として主人公は設定されている。若い観客に「戦争は嫌だな」と思わせる力を持った作品ではないかと思う。