栗の森のものがたり

   82分 | 2019年

スロベニア出身の新鋭グレゴル・ボジッチ監督が描く大人の寓話

イタリアとユーゴスラビアの国境にある広大な森を舞台に、老棺桶職人と栗売り女性の人生を絵画のような映像美でつづる。

イタリアとユーゴスラビアの国境に位置する広大な森を舞台に、ケチな棺桶職人と夢見る栗売りの人生を絵画のような映像美でつづった大人の寓話。

1950年代、美しい栗の森に囲まれた国境地帯の小さな村。長引く政情不安から多くの人々が村を離れていく中、老大工マリオは家を飛び出したまま戻らない息子からの連絡を待ち続けていた。一方、栗売りのマルタは、戦争へ行ったまま帰ってこない夫からの手紙と数枚の写真を手がかりに、現在夫が住んでいると思われるオーストラリアへ旅立とうとしている。ある日出会ったマリオとマルタは互いの境遇を語りあい、やがてマリオはマルタにある提案を持ちかけるが……。

フェルメールやレンブラントといったオランダ印象派の画家に影響を受けたというスロベニア出身の新鋭グレゴル・ボジッチ監督が、ロシアの文豪アントン・チェーホフの短編にインスピレーションを受け、人生の機微をメランコリックに描き出す。

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監督: グレゴル・ボジッチ
製作: マリーナ・グムジ
脚本: グレゴル・ボジッチ マリーナ・グムジ
出演: マッシモ・デ・フランコビッチイバナ・ロスチジュジ・メルリトミ・ヤネジッチ
英題:Zgodbe iz kostanjevih gozdov
スロベニア / イタリア語、スロベニア語
(C)NOSOROGI TRANSMEDIA PRODUCTION RTV SLOVENIJA DFFB 2019

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映画レビュー

杉本穂高

PRO

栗が川を流れるだけで感動させる力がある映画

杉本穂高さん | 2023年10月31日 | PCから投稿

不穏なおとぎ話であった。ショットの完成度が非常に高い。どのショットもばっちり絵になっていて、それらを観るだけでも感動できる。冒頭の穴を埋めているシーンはややスローモーションをかけているのか、なんだか超現実的な白日夢のような美しい雰囲気。特に好きなのは、たくさんの栗が川を流れていくショット。ただ栗が流れているだけなんだけど、自然の摂理のようなものを強烈に感じさせて大変に印象深い。
舞台はイタリアの国境近くにある村で厳しい寒さに襲われる土地。一人息子がでていき、病に伏した妻を介護しながら生活している老人、夜中に医者の所に連れて行ったらそっけない対応をされるときのわびしい感覚。身を斬るような寒さと人の心の冷たさを融解するのは、自然の美しさと帰らない夫を待つ美しい女性との出会い。栗の森が二人を結び付ける。その出会いが現実なのか、幻想なのかもよくわからない。寓話と現実が入り混じる桃源郷で見る夢のような作品。美しい幻想に浸れる至高の時間だった。