栗の森のものがたり
スロベニア出身の新鋭グレゴル・ボジッチ監督が描く大人の寓話
イタリアとユーゴスラビアの国境にある広大な森を舞台に、老棺桶職人と栗売り女性の人生を絵画のような映像美でつづる。
映画レビュー
PRO
栗が川を流れるだけで感動させる力がある映画
杉本穂高さん | 2023年10月31日 | PCから投稿
不穏なおとぎ話であった。ショットの完成度が非常に高い。どのショットもばっちり絵になっていて、それらを観るだけでも感動できる。冒頭の穴を埋めているシーンはややスローモーションをかけているのか、なんだか超現実的な白日夢のような美しい雰囲気。特に好きなのは、たくさんの栗が川を流れていくショット。ただ栗が流れているだけなんだけど、自然の摂理のようなものを強烈に感じさせて大変に印象深い。
舞台はイタリアの国境近くにある村で厳しい寒さに襲われる土地。一人息子がでていき、病に伏した妻を介護しながら生活している老人、夜中に医者の所に連れて行ったらそっけない対応をされるときのわびしい感覚。身を斬るような寒さと人の心の冷たさを融解するのは、自然の美しさと帰らない夫を待つ美しい女性との出会い。栗の森が二人を結び付ける。その出会いが現実なのか、幻想なのかもよくわからない。寓話と現実が入り混じる桃源郷で見る夢のような作品。美しい幻想に浸れる至高の時間だった。