ロスト・キング 500年越しの運命

   108分 | 2022年 | G

スティーブン・フリアーズ監督、サリー・ホーキンス主演のヒューマンドラマ

500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見の立役者となった女性の実話をもとに撮りあげた。

「クィーン」の名匠スティーブン・フリアーズが「シェイプ・オブ・ウォーター」のサリー・ホーキンスを主演に迎え、500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見の立役者となった女性の実話をもとに撮りあげたヒューマンドラマ。

フィリッパ・ラングレーは職場で上司から理不尽な評価を受けるが、別居中の夫から生活費のため仕事を続けるように言われてしまう。そんなある日、息子の付き添いでシェイクスピア劇「リチャード三世」を鑑賞した彼女は、悪名高きリチャード3世も実際は自分と同じように不当に扱われてきたのではないかと疑問を抱き、歴史研究にのめり込むように。1485年に死亡したリチャード3世の遺骨は近くの川に投げ込まれたと長らく考えられてきたが、フィリッパは彼の汚名をそそぐべく遺骨探しを開始する。

「あなたを抱きしめる日まで」のスティーブ・クーガンが主人公の夫を演じ、ジェフ・ポープと共同で脚本も担当。

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映画レビュー

牛津厚信

PRO

心に潤いを与え、知的好奇心を満たしてくれる秀作

牛津厚信さん | 2023年9月27日 | PCから投稿

歴史というものは支配者の思惑によっていくらでもねじ曲げられるわけで、敗者の王たちは、自分とあまりに異なる虚像が広がろうとも、泣き寝入りするしか術がない。誰かが奇跡的に真実を掘り起こしてくれぬ限りは・・・。一人の女性がふとしたことでリチャード3世に興味を持ち、自らの信念を貫いて固定化した歴史を覆そうとする本作をとても面白く観た。人は物事や人物を枠にはめたがるもの。職場や家庭内でついつい枠にはまってしまいがちな主人公が、英国史に残る悪王として烙印を押されたリチャード3世に惹かれ行く様は、突飛な展開ながら無理なく納得してしまうユニークさがある。凝り固まった常識や権威主義の眼鏡を外し、濁りない眼で真実を見極めようとする役柄をサリー・ホーキンスが嬉々として演じていて、観ているだけで微笑ましく、元気をもらえる。夫役のスティーヴ・クーガンは共同脚本も担当。知的好奇心を満たす充実した内容に仕上がっている。

高森 郁哉

PRO

権威主義が個人研究者を蔑視する悪弊が、朝ドラ「らんまん」に通じる

高森 郁哉さん | 2023年9月23日 | Androidアプリから投稿

500年以上行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨が2012年に発見された実話に基づくそうで、大学等に所属していない個人の研究者フィリッパ(夫と別居中のワーキングマザー)が発掘を牽引したという事実にまず驚かされた。

もっとも、劇映画化に際してよりドラマティックな効果を狙い、主人公にリチャード3世の幻影を見させるなど、ファンタジックな描写も添えている。遺骨が埋まっている駐車場にも馬上のリチャード3世に導かれるが、現実には既に別の研究者らが遺骨がある場所として絞り込んでいた候補地の1つだったそうで、場所の特定をフィリッパ(と彼女の霊感)だけの手柄のように描くのは創作が過ぎると感じた。

とはいえ、当初はプロジェクトに懐疑的で非協力的だったレスター大学の関係者らが、遺骨が見つかった途端に大学主導の偉業のように吹聴し、フィリッパの功績を蔑ろにするのは、悲しいかな既視感のある、現実にありふれた構図なのだろう。植物学者牧野富太郎をモデルにしたNHK朝ドラ「らんまん」でも何度か描かれたように、国立大学など国の組織に属する権威主義者が下請けや在野の研究者を見下し、何か目覚ましい功績があれば大学や所属教授の手柄にしようと画策するのは、英国でも日本でも同様の悪しき伝統なのだろうか。

レスター大学や考古学者リチャード・バックリー(遺骨発掘後、名誉教授に)なども実名で登場しており(もし日本で比較的最近の実話を劇映画化するなら、当然各方面に忖度して架空の名前だらけになりそう)、結構な悪役として描かれているため、公開後に抗議の声明や法的措置の示唆もあったようだ。完全なフィクションなら大学側に天罰が下ってスカッとさせてほしいところだが、そのあたりは実話ベースゆえ、今一つすっきりしないエンディングを迎える。ともあれ、遺骨発掘の経緯自体は実に興味深く、英国で放映されたドキュメンタリー作品「Richard III: The King in the Car Park」がUK版のプライムビデオで配信されているので、ぜひ日本でも視聴可能にしてほしい。