映画レビュー
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イ・ジョンジェの人望の高さの証明
和田隆さん | 2023年10月2日 | PCから投稿
盟友チョン・ウソン(「私の頭の中の消しゴム」)がイ・ジョンジェとともに主演し、チョン・ヘジン(「詩人の恋」)、ホ・ソンテ(「イカゲーム」)に加え、ディズニープラスの大ヒットドラマ「ムービング」で大注目のコ・ユンジョンなど韓国を代表する俳優が共演。さらに「新しき世界」「ただ悪より救いたまえ」でも共演しているファン・ジョンミンら豪華俳優陣がカメオ出演しているのも見どころで、監督デビュー作を盛り上げています。
また、そのジョンジェ監督のもとに韓国映画界トップクラスのスタッフも集結。マイケル・マン監督「ヒート」を彷彿とさせるような街中でのカーチェイスや銃撃戦など、リアルなアクションシーンひとつとっても改めて韓国映画の質の高さを実感します。80年代の再現も細部まで作り上げられ、ワシントン、東京、タイのシーンはすべて韓国で撮影されたとは思えない仕上がりとなっています。
そして、派手なアクションとともに、ジョンジェ監督は登場人物の心理戦に焦点を当てており、誰も信じられないという状況の中での対峙、高まっていく緊張感の末にたどり着く衝撃の真実に釘付けにさせられることでしょう。
PRO
贅肉を削ぎ落としたタイトで壮絶な攻防戦
牛津厚信さん | 2023年9月29日 | PCから投稿
これは気迫と魂のみなぎった快作だ。序盤からフルスロットルで展開し、二人の主人公たちが80年代の韓国政府の情報部で二重スパイ探しに駆けずり回る姿を描く。仲間どうしで親交を温めたり、家族や恋人たちが愛情を育んだりといった一息つく場面はほとんどなく、贅肉を削ぎ落としたシビアな攻防が最初から最後までずっとテンションを維持しながら続く。展開のペースは幾分速い。速すぎるくらい。一つ間違えると観客側が情報過多、消化不良に陥るリスクをはらみつつ、作り手側は観客がついてきてくれることを最後まで信じてこのスピードを緩めない。その信頼関係こそが終盤の真相判明あたりからの怒涛の展開をより効果的に加速させていくのだろう。これが主演イ・ジョンジェによる初監督作だと知って驚いた。演技面の準備だけでも大変なのに、複雑なプロットを周到に、齟齬なく、スピーディーに仕掛け、炸裂させることのできる重厚な手腕。いやはや恐れ入った。
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80年代韓国政治史に虚構を巧みに織り込んだ知的スパイアクション
高森 郁哉さん | 2023年9月25日 | PCから投稿
韓国で俳優として30年近いキャリアを築き、Netflixのドラマ「イカゲーム」主演で世界的な大ブレイクを果たしたイ・ジョンジェ。そんな彼が初監督で初脚本、さらにダブル主演も務めた「ハント」の高い完成度ととてつもない熱量に圧倒される。
もともと韓国映画界は実際に起きた事件を題材にサスペンスやドラマの娯楽作を仕立てるのが得意という印象があるが、本作もしかり。ストーリーの背景や前景となるのは、全斗煥が軍の実権を掌握した1979年の粛軍クーデターと大統領就任の足掛かりにした1980年の光州事件、1983年の北朝鮮軍飛行士イ・ウンピョンによる亡命、北朝鮮工作員が全斗煥大統領の暗殺を図ったビルマ・ラングーン爆弾テロといった重大な事件。そうした史実の点と点をフィクションの補助線でつなぐかのように、韓国情報機関に食い込んだ北朝鮮スパイをめぐる動きと、韓国内部で大統領暗殺を画策する動きを交錯させ、緊張感を維持したまま怒涛のクライマックスへとなだれ込む。
イ・ジョンジェの役どころは、安全企画部の海外班長パク。パクとライバル関係にあるのが、国内班長のキム。序盤から中盤にかけて、この2人を中心にスパイ探しの動きが話のメインになるが、後半でスパイの正体が明らかになってからのひねりが実に巧い。これを機にパクとキムの関係性も変化するのだが、2人それぞれの信念と感情もまた的確に描くことで、終盤の派手なアクションにエモーショナルな要素が加わり、一層味わい深いシークエンスになっている。
80年代の韓国政治史をある程度把握していれば、この史実と虚構を織り交ぜたサスペンスアクションに知的好奇心を大いに刺激されつつ楽しめるだろうが、そうでないとテンポの速い展開に置き去りにされてしまうかも(実際、カンヌでプレミア上映された際、外国メディアから80年代韓国政治を知らないと話についていくのが大変だと不評を買い、その後一部の台詞を録り直すなどして再編集したという)。もし本作の劇場鑑賞までに時間があるなら、光州事件を題材にした「タクシー運転手 約束は海を越えて」、全斗煥大統領時代の情報機関の活動を描く「偽りの隣人 ある諜報員の告白」などで時代背景をおさえておくと、多少は理解の助けになるかもしれない。また、時代は少し前になるが、1979年の大事件を扱った「KCIA 南山の部長たち」を観ると、かの国では情報部員が大統領暗殺を図るということが決して絵空事ではないと思い知らされるはずだ。