こんにちは、母さん
現代の東京・下町に生きる家族が織りなす人間模様を描いた人情ドラマ
山田洋次監督と吉永小百合主演の「母べえ」「母と暮らせば」に続く「母」3部作の3作目。大泉洋が共演。
映画レビュー
PRO
脇役が新鮮な山田映画アップデート版
清藤秀人さん | 2023年9月9日 | iPhoneアプリから投稿
山田洋次が吉永小百合主演で描く"母3部作"の3作目は、東京の下町で細々と足袋屋を営む母が、会社のいざこざで悩んでいる息子の前で、誰かに恋したことを打ち明ける。過去の2作とは随分ムードが違うが、母と息子の周辺では今の日本社会から取り残された人がいたり、下町の人々の温かい日常があったりと、いつのも山田映画がベースにはある。
最も違うと感じたのは、大泉洋演じる息子を悩ませる会社の同僚を演じるのが、吉岡秀隆ではなく宮藤官九郎だったり、母の友達の1人をYOUが演じるなど、比較的新しい顔が脇で存在感を発揮している点。山田映画は細部でアップデートされているのだ。撮影ではテイク数が多いことで知られる山田演出に、同じ脚本家でもある宮藤がどう対処したのか?なぜ、YOUは誰よりも自然な演技に徹することが出来たのか?聞いてみたいことはいっぱいある。
何よりも、最後まで人の心に寄り添い、駆け抜ける山田洋次作品の脚本力を改めて痛感する最新作だった。
PRO
小津安二郎監督作品の面影を想起してしまう
和田隆さん | 2023年9月6日 | PCから投稿
家族と親子を描いてきた松竹映画らしい作品であり、間もなく92歳を迎える山田洋次監督が改めて原点回帰した、“母と息子”の新たな出発の物語です。
吉永小百合と大泉洋の組み合わせが素晴らしい効果を発揮しています。吉永の映画出演は123本目で、山田組は6本目、「母べえ」「母と暮せば」に続く「母」3部作の3作目。大泉は山田監督の映画出演は初(ドラマで山田監督が脚本を務めた「あにいもうと」に参加している)となります。大泉が製作発表時に「あの吉永小百合から、大泉洋は生まれない」と自虐的にコメントしていましたが、山田監督の演出による母と息子としてのふたりの掛け合いは心地よく、お互いに俳優としての新たな魅力を引き出し合っているように思います。
なお本作には、冒頭や所々にインサートされるビルや下町の景色、昔ながらの日本家屋でのエピソード、目線を少しだけずらした人物を正面から捉えたショットの切り返しによる会話やテンポなど、山田作品でありながら、小津安二郎監督作品の面影を想起してしまうようなカットやシーンが散見されます。もちろん山田監督は意識して撮っていないと思いますが、そんな見方でも楽しめる作品です。