水は海に向かって流れる

   123分 | 2023年 | G

田島列島の同名コミックを広瀬すず主演、前田哲監督で実写映画化

シェアハウスを舞台に“年差10歳”の2人が綴る、爽やかな「ときめき」と「感動」の物語。

スクリーン1

田島列島の同名コミックを、広瀬すず主演、「そして、バトンは渡された」の前田哲監督のメガホンで実写映画化。

高校に入学した直達は、通学のため叔父・茂道の家に居候することに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さんだった。しかも案内されたのはシェアハウスで、会社員の榊さん、親に内緒で会社を辞めマンガ家になっていた叔父の茂道、女装の占い師・颯、海外を放浪する大学教授・成瀬ら、くせ者ぞろいの住人たちとの共同生活が始まる。いつも不機嫌そうだが気まぐれに美味しいご飯を振る舞ってくれる榊さんにいつしか淡い思いを抱くようになる直達だったが、彼と榊さんの間には思わぬ過去の因縁があった。

広瀬すずが榊さん役で主演を務め、「キングダム」の大西利空が直達、「横道世之介」の高良健吾が茂道、アニメ映画「かがみの孤城」で主人公の声を担当した當真あみが直達の同級生で颯の妹の楓を演じる。

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監督: 前田哲
原作: 田島列島
脚本: 大島里美
出演: 広瀬すず大西利空高良健吾戸塚純貴當真あみ勝村政信北村有起哉坂井真紀生瀬勝久
日本 / 日本語
(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

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映画レビュー

高森 郁哉

PRO

素材は良いのに、もったいない

高森 郁哉さん | 2023年6月12日 | Androidアプリから投稿

衣装から花からインテリア小物までカラフルでキラキラな映像コーディネートは、インスタ世代を意識した“ばえ”演出か、将来の配信でのスマホ視聴を見据えた作りなのか。

「子供はわかってあげない」に続き田島列島の漫画が実写映画化されるのは2作目。数多くのランキングで上位に入り手塚治虫文化賞新生賞の受賞理由にもなった原作は未読ながら、映画公式サイトに掲載された抜粋を見ると、素朴だが味わいのあるキャラクター造形、恋愛しないと宣言している榊さんや売れていない漫画家の茂道をはじめ服装はシンプルで地味目の印象だ。

榊さん役の広瀬すずと茂道役の高良健吾は人気・実力で世代トップクラスの演者だし、高校生の直達役の大西利空と同級生の楓役・當真あみも共に十代ながら多数の作品で目にする売れっ子。前田哲監督は、生年は非公表のようだがインタビューで岩井俊二監督(現在60歳)とほとんど一緒の年齢と語っていたし、1998年に監督デビューして以来メガホンをとった映画は20本以上あり、ベテランの部類に入るのだろう。

高評価された原作漫画に、メジャーなキャスト陣と、素材は良いのに活かしきれていないもったいなさ。これは、思春期や青春期を描いた漫画を人気俳優のキャストとベテラン監督の組み合わせで手堅く(冒険しないで)稼げる実写映画化作品を量産してきた、日本の商業映画の構造的な問題ではなかろうか。まず榊さんのキャラクターで考えると、広瀬すずが(派手ではないにせよ)きっちりメイクして衣装もおしゃれで、恋愛から距離を置いている榊さんにしては人目をひく美人すぎ。代わりに誰とはすぐに思いつかないものの、広瀬すずほどわかりやすい美人でなく、もっとあっさりした顔立ちだが見慣れると人柄の良さがにじみ出てくるような、なおかつ化粧っ気のない顔でカメラの前に立てる二十代半ばの女優をキャスティングできなかったか。高良健吾が演じる脱サラした漫画家も、年齢不相応のキャラクターニット帽にカラフルコーデで薄っぺらくてリアリティーに欠ける人物造形だ。

冒頭に出てくるポトラッチ丼になぞらえるなら、高級和牛を普通のめんつゆで手早く味付けた料理を振舞われるのに似て、味覚が発展途上の十代なら最高に思えても、年相応に食の経験を積んだ大人なら「適切に調理すれば素材の良さをもっと楽しめるのにもったいない」と感じるようなもの。沖田修一監督・上白石萌歌主演の「子供はわかってあげない」が素晴らしかったからなおのこと、この「水は海に向かって流れる」も逸品になり得たのではないかと。