イノセンツ

   117分 | 2021年 | PG12

「わたしは最悪。」の脚本家エスキル・フォクトが監督したサイキックスリラー

退屈な夏休みに不思議な力に目覚めた子どもたちの遊びが、次第に狂気へと変わっていく姿を美しくも不気味に描く。

退屈な夏休みに不思議な力に目覚めた子どもたちの遊びが、次第に狂気へと変わっていく姿を、美しくも不気味に描いたノルウェー製のサイキックスリラー。

ノルウェー郊外の住宅団地。夏休みに友人同士になった4人の子どもたちが、親たちの目の届かないところで隠れた力に目覚める。子どもたちは近所の庭や遊び場で新しい力を試すが、やがてその無邪気な遊びが影を落とし、奇妙なことが起こりはじめる。

監督は、「わたしは最悪。」でアカデミー脚本賞にノミネートされたエスキル・フォクト。ヨアキム・トリアー監督の右腕として、同監督の「母の残像」「テルマ」「わたしは最悪。」で共同脚本を務めてきたフォクトにとって、自身の監督作はこれが2作目となる。撮影を「アナザーラウンド」「ハートストーン」など北欧映画の話題作を多数手がけるシュトゥルラ・ブラント・グロブレンが担当。

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監督: エスキル・フォクト
製作: マリア・エケルホフド
製作総指揮: アクセル・ヘルゲランド セリーヌ・ドルニエ デイブ・ビショップ
出演: ラーケル・レノーラ・フレットゥムアルバ・ブリンスモ・ラームスタミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイムサム・アシュラフエレン・ドリト・ピーターセンモーテン・シュバルトベイト
英題:De uskyldige
ノルウェー,デンマーク,フィンランド,スウェーデン / ノルウェー語
(C)2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES (C)Mer Film

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映画レビュー

村山章

PRO

子供たちが陥る落とし穴は「狂気」ではない。

村山章さん | 2023年8月31日 | PCから投稿

説明文には「次第に狂気へと変わっていく」と書いてあるのだが(公式サイトでも「とりかえしのつかない狂気」とある)、果たしてあの子供が陥ったのは狂気だろうか。幼い日には誰もが抱いたもどかしい感情が、おそらく超能力によって増幅され、そして歯止めがきかなくなるリミットを超えてしまう。超えた時点で狂気なのかもだけれど、この映画の子供たちは全員、ごく当たり前の感情に振り回されているに過ぎず、気持ちと気持ちの掛け違いを極端なカタチで表現したらこうなったのではないか。それくらい本作で描かれているエモーションは普遍的だし、決して特殊な子供たちの物語ではないのだと思っています。

牛津厚信

PRO

子供たちの静かなる内面模様に心掴まれる

牛津厚信さん | 2023年7月29日 | PCから投稿

北欧から届く映画には、日常を別の角度から、あるいは内側から提示するものが多い。この『イノセンツ』も子供たちのサイキックスリラーといえばそれまでだが、描写の端々に一筋縄ではいかない感覚が溢れ、序盤の「つねる」という子供ながらの小さな悪意を起点として、まだ右も左も分からない主人公たちの感情がいかに振り切れていくのか、期待させるし、不安にもさせる。「童夢」にインスピレーションを受けているだけあって、団地が舞台となのは当然であるし、やがて目覚める彼らの力は不可能を可能とし、希望にも、また暴走の火種にもなりうる。だがここで注目すべきは内面の描写であり、最初の「つねる」という行為がいかに変容していくのかという姉妹の関係性の成熟には心奪われるものがあった。興味深いのは、超能力をメタファーとして捉えると、子供をめぐる社会のあり方を描いた映画のようにも思えること。これまた北欧らしいなと感じ入った次第である。