映画レビュー
PRO
同じ場所に止まるか、動くか。人生の二種択一
清藤秀人さん | 2023年5月11日 | PCから投稿
都会育ちの少年、ピエトロが、山を愛する両親と共に過ごした北イタリアのモンテ・ローザ山麓で出会った牛飼いの少年、ブルーノとの交流を振り返る形で物語は進む。2人は同い年で性格もまるで違うが、各々が歩んだ人生には誰もが思い当たる根本的な生き方の違いが反映されていて、思わず胸を突かれる。
ピエトロが山麓を離れてから世界中の山々を制覇し、作家としての地位も固めていくのに対して、ブルーノは故郷の山に止まって貧しいながら牧畜業に専念する決意を固めるのだ。
人生には大まかに言うと2つの選択肢がある。止まるか、動くか、そのどちらかだ。
北イタリアをメインに、大自然の美しさと残酷さ、そして、時の流れに翻弄され、それでも旧友を思いやる男たちの変わらぬ友情を描いた本作は、果たして、自分の人生はどうだったかと言う問いを我々に投げかけてくる。でも、後悔したところで時間は戻らない。鑑賞後に残る複雑な余韻は格別なものだ。
PRO
雄大な自然映像と普遍的な人間ドラマが胸を揺さぶる
牛津厚信さん | 2023年4月30日 | PCから投稿
ベストセラー小説の映画化だが、大自然をめぐる雄大な映像に触れた時、これは「映画化されるべくしてされた物語」だと確信した。北イタリアのモンテローザ山麓で交錯するのは、二人の幼なじみの人生だ。都会育ちのピエトロはいつしか自分の居場所を探して世界中を旅して回り、自然の中で生きてきたブルーノは「ここでしか生きられない」と村から一切動くことはない。そこに亡くなった父をめぐる記憶がノスタルジックに重なり、さながらこの映画は過去と現在が溶け合わさるかのように、有機的な感慨となってゆっくり流れていく。荒々しくも神秘的な輝きに満ちた山々。土の匂い、木々の香り。対照的ながら共感せずにいられない二人の生き様・・・。監督は本作について「コロナ後における地球との再接続の意味を込めた」と語っているが、なるほど、映像と人間ドラマによって意識がみるみる覚醒するかのようで、その言葉の意味するところが身に染みてよく分かった。