映画レビュー
PRO
2本のストーリーラインを積み上げて頂点に導く、塔建造の映画にふさわしい様式美
高森 郁哉さん | 2023年3月27日 | PCから投稿
ギュスターブ・エッフェルはパーティー会場で友人のレスタックから妻アドリエンヌを紹介される。2人は驚いたように見つめ合い、しばらく言葉を失う。初対面を装うが、ほどなく2人には過去に何かあったことがわかりやすくほのめかされる。
ギュスターブがパリに300メートルの鉄塔を造ると宣言してから、幾多の苦難を乗り越えて遂に完成させるまでが第1の筋。そして、ギュスターブとアドリエンヌの過去の出会いから2人の恋愛の行方を時系列にそって回想するのが第2の筋。この2本のストーリーラインを交互に積み上げ、やがて合体させてピークに至る物語構成は、塔建造の映画にふさわしい様式美と言えるだろう。
アドリエンヌ役のエマ・マッキーの意志の強さを思わせるシャープな顔立ちと、アドリエンヌの娘クレールを演じた柔和な雰囲気のアルマンド・ブーランジェ、2人の女優の好対照もいい。クレールとその夫の話がもう少し語られてもよかった気がする。
PRO
塔建造の経緯や背景を紐解く”きっかけ”として面白い
牛津厚信さん | 2023年3月26日 | PCから投稿
あのフランスのシンボルとも言うべき鉄塔はいかにして建造されたのか。そんな主題を紐解くだけでも「プロジェクトX」のようで知的好奇心が掻き立てられる。しかしタイトルに「愛」の一文字が浮かんでいることから分かる通り、硬派なヒューマンドラマを期待するとしっぺ返しをくらう。あくまで秘められた恋をめぐるラブストーリーとしての観点から映画が綴られていくので、エッフェル本人の夢とか希望に打ち震える感動の展開ではなく、意外と物語がこじんまりとまとまってしまう部分はあらかじめ覚悟しておきたいところ。ただ、階級の差であるとか、資本家と労働者、技術的な革新、戦争からの復興などの様々な”橋渡し”的使命を持って、このシンボルが足元の地盤から強固に形作られていく映像は非常にダイナミックだし、この国の近代史を投影した意味合いも多分に読み取れる。本作をあくまで”入口”として、自分なりの興味関心を深めていきたいところである。