パリタクシー

   91分 | 2022年 | G

フランスが愛する2大スターが夢の共演をした、意外過ぎる感動作

旅するように美しいパリを巡る映像体験、衝撃の先の感動にあなたは立ち上がれない!

終活に向かうマダムを乗せたタクシー運転手が、彼女の人生をめぐるパリ横断の旅に巻き込まれていく姿を描いたヒューマンドラマ。

無愛想なタクシー運転手シャルルは、金も休みもなく免停寸前で、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼は92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送ることに。終活に向かうというマドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。そしてそのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かしていく。

「ミックマック」のダニー・ブーンがタクシー運転手シャルル、フランスの国民的シャンソン歌手リーヌ・ルノーがマドレーヌを演じた。監督・脚本は「戦場のアリア」のクリスチャン・カリオン。

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監督: クリスチャン・カリオン
製作: ロール・イルマン クリスチャン・カリオン
脚本: シリル・ジェリー クリスチャン・カリオン
出演: リーヌ・ルノーダニー・ブーンアリス・イザーズジェレミー・ラユルトグウェンドリーヌ・アモンジュリー・デラルムトマ・アルダンアドリエル・ルール
英題:Une belle course
フランス / フランス語
(C)2022 UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - ARTÉMIS PRODUCTIONS

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映画レビュー

牛津厚信

PRO

やがて怒りは消え、敬意と信頼がほとばしる

牛津厚信さん | 2023年4月29日 | PCから投稿

このタクシー運転手は最初から苛立っている。それこそ世の中の全てに腹を立ててるんじゃないかと思えるほど目は釣り上がり、二言目には悪態が飛び出す始末。しかし一人の高齢のマダムとの出会いによって、彼の仏頂面が突き崩されるのだから出会いとは実に尊いものだ。こういう時、生まれも育ちも違う二人が徐々に心を引き寄せあう流れは容易に予想できるが、しかしマダムが打ち明ける「打ち明け話」には、かつて時代の風潮や性差の壁に屈することなく、母として、女性として日々を必死に戦い抜いた自負と誇りがほとばしり、聞く者を強く惹きつけてやまない。パリ市内の端から端まで。それはまるで記憶と場所を辿りゆくタイムマシンのよう。そして彼女の物語を受け留める相手としてこのタクシー運転手ほどふさわしい者はいない。いつしか怒りは消え失せ、心からの敬意の眼差しに変わる。シンプルな構造ながら、一人の男のかくも移りゆく姿にも胸打たれる一作だ。

清藤秀人

PRO

人との繋がりが希薄になりつつある今だからこそ

清藤秀人さん | 2023年4月9日 | PCから投稿

車が交通違反スレスレで街を行き交うパリ。その最たるものは凱旋門の周辺で露わになる譲り合い精神のなさだ。そんなドライバーにとってはきつい街で長年タクシー運転手をしている主人公、シャルルが抱えるストレスがいかほどのものかは想像に難くない。さらに、薄給、無休、免停スレスレという三重苦にあえぐシャルルは、しかし、ある日「終活」に向かうという92歳のマダムを後部座席に乗せたことで、きついなりにももう一度人生と向き合ってみる気になる。偶然がもたらした出会いの物語は意外な方向へとハンドルを切っていくのだ。

最初は面倒だったマダムの"寄り道リクエスト"(←ここが肝心)に応える過程で明らかになる、女性にとっては生きづらい時代の痛々しい記憶が、シャルルの挫けた心を宥め、再生させていくプロセスが実に自然だ。上手い作劇と、演じる2人の俳優がともするとパターンに陥りがちな設定を味わい深いものにしている。主な舞台はタクシーの車内だが、車窓に映るのは人間が積み残してきた苦い歴史の断片たち。このスケール感が最大の魅力だ。

人との繋がりが希薄になりつつある今、是非、見て欲しいメイド・イン・フランスの名編である。