犬も食わねどチャーリーは笑う

   117分 | 2022年 | G

スクリーン1

ある夫婦の互いにゆずれないバトルを、香取慎吾主演でコミカルに描いたブラックコメディ。

結婚4年目となる裕次郎と日和は、表向きは仲良し夫婦に見えたが、鈍感な裕次郎に日和は不満を募らせていた。そんな日和が鬱憤を吐き出さすツールとして出合ったのが、SNSの「旦那デスノート」だった。そこには世の夫たちが見たら驚がくするであろう、妻たちが投稿する本音の数々が書き込まれていた。ある日、裕次郎はそのSNSの存在を知り、自分について書かれていると思われる投稿を見つけてしまう。書き込んでいるのは、チャーリーというハンドルネームの人物だった。チャーリーとは、裕次郎と日和が飼っているフクロウの名前と同じで……。

裕次郎役を香取、日和役を岸井ゆきのが演じるほか、井之脇海、的場浩司、余貴美子らが脇を固める。監督は「箱入り息子の恋」「台風家族」の市井昌秀。

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監督: 市井昌秀
脚本: 市井昌秀
製作総指揮: 木下直哉
出演: 香取慎吾岸井ゆきの井之脇海中田青渚小篠恵奈松岡依都美田村健太郎森下能幸的場浩司眞島秀和徳永えり峯村リエ菊地亜美有田あん瑛蓮きたろう浅田美代子余貴美子
日本 / 日本語
(C)2022 “犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS

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映画レビュー

高森 郁哉

PRO

いかにも日本的な仮面夫婦。笑えるかどうかは観客次第

高森 郁哉さん | 2022年9月29日 | PCから投稿

市井昌秀監督の出世作「箱入り息子の恋」(兼脚本)は、かなり昔に観て細部を忘れてしまっているものの、不器用な男女の恋の機微を繊細に描くストーリーが好ましく愛おしいと感じたことを覚えているし、星野源の演技者としての魅力を広く世に知らしめる一作でもあった。

「箱入り息子の恋」が恋愛の上り坂を描く話なら、市井監督がやはりオリジナル脚本で臨んだ「犬も食わねどチャーリーは笑う」は結婚の下り坂、あるいは崖っぷちを描く話と言えるだろうか。香取慎吾が演じるホームセンター勤務の裕次郎は、客として出会った日和(岸井ゆきの)と結婚して7年後、共働きの妻に食事の支度や掃除、ペットのチャーリー(ふくろう)の世話まで押しつける身勝手な夫になっている。日和の不満に気づかない鈍感さのせいで、得意げに披露する雑学が余計にうっとうしい。だが日和は、直接言えない日頃のうっぷんをSNS「旦那デスノート」にぶちまけていた。職場の同僚からそのSNSの存在を教わった裕次郎は、“チャーリー”名義で書き込む妻の本音を知ってしまい……という展開。

香取は今までにない役柄に挑戦しているが、SMAP時代にバラエティ番組などで発揮していたコメディアン的資質を封印したことで、笑っていいのかどうか分かりづらいキャラクター描写になってしまった気がする。また裕次郎と日和の関係性も、同調圧力が強く本音を隠しがちな日本人の夫婦にありそうなエピソードで語られるが、観客が既婚者なら思い当たるふしがあるかどうか、あるいは両親や身近な夫婦などに似た状況があるかどうかで、楽しく笑えるか、それとも苦笑いになるのかが分かれそうだ。

ファミレスで空いたボックス席をはさんで裕次郎と日和が会話する場面、終盤の日和が勤めるコールセンターでやはり日和と裕次郎が距離を置いて対峙する場面では、ワイドな画角を活かした映画らしいショットが印象的だが、後者のシークエンスでは夫婦のやり取りを日和の職場仲間が(ひっきりなしの着電を放置して)延々と見守るという状況が、あり得なさすぎて観ているほうが気恥ずかしくなってしまう。

あと、中田青渚や徳永えりなど、若手の成長株の使い方がちょっともったいなかった。脇キャラに長々と尺を割くわけにいかないのもわかるのだが。

大塚史貴

PRO

香取慎吾が体現する、シンプルで明瞭なメッセージ

大塚史貴さん | 2022年9月20日 | PCから投稿

香取慎吾の主演作。これまでにキャラクターものを演じることも多かった香取だが、
今作では等身大の平凡な男として、作品世界を生き切っている。
少々鈍感すぎて、「妻」を苛立たせる要素がたっぷり過ぎるほどに詰め込まれているけれど……。

世の中の夫たちには、身に覚えのあるエピソードが幾つかは潜んでいるような気がします。
かくいう私も、本編を観ていて背筋がゾゾゾとしたくだりもあったんですけどね(苦笑)。

「旦那デスノート」なんていう、ドギツイ単語が強烈なインパクトを放っていますが、
この作品が伝えたいメッセージはもっと明瞭でシンプルなものです。
市井昌秀監督をはじめとする製作陣の思いを汲み取った香取慎吾と岸井ゆきのが、
作品をコメディにも、ヒューマンドラマにも仕立ててくれます。