あちらにいる鬼

   139分 | 2022年 | R15+

作家・井上荒野の同名小説を寺島しのぶと豊川悦司主演で映画化

作家・井上光晴とその妻、そして瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の特別な関係を描いた人間ドラマ。

スクリーン1

作家・井上荒野が自身の父である作家の井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の特別な関係をつづった同名小説を、寺島しのぶと豊川悦司の主演で映画化。

人気作家の長内みはるは戦後派を代表する作家・白木篤郎と講演旅行をきっかけに知り合い、男女の仲になる。一方、白木の妻・笙子は夫の奔放な女性関係を黙認することで平穏な夫婦生活を続けていた。しかしみはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、「書くこと」を通してつながることで、かけがえのない存在となっていく。

瀬戸内寂聴をモデルにした長内みはるを寺島、井上光晴をモデルにした白木篤郎を豊川、白木の妻・笙子を広末涼子が演じる。「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」の廣木隆一が監督、荒井晴彦が脚本を手がける。

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監督: 廣木隆一
原作: 井上荒野
脚本: 荒井晴彦
出演: 寺島しのぶ豊川悦司広末涼子高良健吾村上淳蓮佛美沙子佐野岳宇野祥平丘みつ子夏子麻美高橋侃片山友希長内映里香輝有子古谷佳也山田キヌヲ
日本 / 日本語
(C)2022「あちらにいる鬼」製作委員会

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映画レビュー

高森 郁哉

PRO

広末涼子演じる笙子の“素顔”に迫るクローズアップに魅せられた

高森 郁哉さん | 2022年11月12日 | PCから投稿

瀬戸内寂聴をモデルにした長内みはる(寺島しのぶ)と、作家・井上光晴をモデルにした白木篤郎(豊川悦司)の関係が物語の主軸なのだが、昨今のモラル感覚に照らせば「不適切な不倫」で片付けられてしまいそうな男女関係を、より複雑で興味深いものにしているのが白木の妻、笙子(しょうこ)の存在だ。その笙子に扮する広末涼子が登場する序盤、ごく薄いメイクしか施していない広末の表情をアップで捉える。十代でアイドル然として芸能界デビューした広末も今や四十過ぎ、隠そうと思えばファンデーションなどでつるんとした見た目にできただろうが、敢えて年相応の素肌をさらしてみせる廣木隆一監督の演出にどきりとする。

みはるは本作で描かれる期間の中で出家するのだが、夫の女性関係を受け入れて微笑む笙子の方がなにやら菩薩のようで、色欲の強いみはると達観する笙子の逆説めいたコントラストも効果的だ。

物語の始まりは1960年代後半。篤郎と笙子が暮らす団地がまだ新しい憧れの住宅として描かれており、映像の質感も相まってノスタルジックな気分にしばし浸った。