映画レビュー
PRO
壊れた社会で生きれば壊れてしまうのは必然
杉本穂高さん | 2022年11月30日 | PCから投稿
原作の切々とした寂寥感が実写映像で上手く表現されていてよい映像化になった。永野芽郁のこれまでにない役柄も上手くハマっていたし、奈緒の「壊れた」感じがとてもリアル。ブロークン・マリコというタイトル通り、壊れて死んでしまった親友を弔う旅路を描くが、彼女がなぜ壊れてしまい、どうして自分に救うことができなかったのかを骨壺を持ちながら自問自答する。主人公み一方で、営業の仕事で毎日のように上司に理不尽な叱責を受けている。こんな環境では、タフな彼女のような人間でない限りすぐに壊れてしまうだろうなと思う。
マリコが壊れたしまった原因は、直接的には家庭問題だが、もっと広く、この社会全体が壊れているのではないかと感じさせる。窪田正孝演じる男もかつて「壊れた」ことがあったようだ。壊れた社会で人が壊れたとしても、それはむしろ正常な反応かもしれない。主人公も実は壊れる寸前ではないのか、死者との旅路で彼女はかろうじて壊れる寸前で留まれたのだと思う。
PRO
ハードボイルドと呼ぶにふさわしい骨太さがある
牛津厚信さん | 2022年9月30日 | PCから投稿
永野芽郁が見せる荒ぶる魂に魅せられた。まず従来の演技とは目つきの鋭さが全く違うし、シーンを重ねるごとにヒリヒリとした摩擦が熱を帯びていくかのよう。それだけじゃない。上司の小言を受け流す。やさぐれ気味に煙草を吸う。着流しのコートとドクターマーチンの靴で突っ走る。酒場ではベロベロに酔う。挙げ句の果てに、彼女が小脇に抱えるのは、無二の親友の遺骨・・・。これはもう一言で表現するならハードボイルド。一方の親友マリコは”ファムファタール”と呼ぶにはちょっとニュアンスが違うかもしれないが、少なくとも主人公の人生を翻弄する”運命の女”である点は一致している。空が落ちてきそうなほどの曇天模様が全編を覆う中、旅を続ける主人公の心が時に大きく剥き出しとなり、かと思えば、躍動しながら少しずつ変貌を遂げていくこのひととき。タナダユキ監督が描くクセモノ揃いの人間たちの中でも、格別に熱い芯を持ったヒロインの誕生である。
PRO
シイノトモヨは二回跳ぶ
高森 郁哉さん | 2022年9月29日 | PCから投稿
これはバディが不在の女性版バディムービーだ。永野芽郁が演じるシイノトモヨは、子供のころからの親友マリコ(奈緒)の遺骨(を収めた箱)を抱き、マリコがかつて行きたいと言った岬を目指して旅に出る。マリコは不在ではあるが、道すがらシイノが回想するシーンで、2人は確かに、共に生きている。
当然ながらロードムービーでもあるが、シイノの日常であるブラック企業の職場とのコントラストが、そうだよな旅って日常からの逃避であり脱出だよなあ、と当たり前のことに改めて気づかせてくれるのもいい。
シイノが跳ぶ場面が2回あり、それぞれ印象的であると同時に、作劇の上でも物語を跳躍(leap)させるはたらきを持つ。2つの場面でともに“水”が登場するのも偶然ではない。シイノが次のステージに進むためのイニシエーション(儀式)を象徴しているのだろう。
虐待されて育った女の子が、若くして死んでしまうという重い要素をはらむ映画だが、シイノの特別なキャラクターと永野芽郁の熱演、タナダユキ監督の誠実な演出によって、きっと観る人の心を軽くしたり希望になったりするのだろうなと信じられる好作になった。