PLAN 75

   112分 | 2022年 | G

第75回カンヌ国際映画祭カメラドールスペシャルメンション受賞!

倍賞千恵子主演で「生きる」という究極のテーマを全世代に問いかける衝撃。早川千絵監督の長編デビュー作。

スクリーン1
配信期間:2024年4月25日(木)まで

これが長編デビュー作となる早川千絵監督が、是枝裕和監督が総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編として発表した短編「PLAN75」を自ら長編化。75歳以上が自ら生死を選択できる制度が施行された近未来の日本を舞台に、その制度に翻弄される人々の行く末を描く。少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が国会で可決・施行され、当初は様々な議論を呼んだものの、超高齢化社会の問題解決策として世間に受け入れらた。夫と死別し、ひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチは、ホテルの客室清掃員として働いていたが、ある日突然、高齢を理由に解雇されてしまう。住む場所も失いそうになった彼女は、「プラン75」の申請を検討し始める。一方、市役所の「プラン75」申請窓口で働くヒロムや、死を選んだお年寄りにその日が来るまでサポートするコールセンタースタッフの瑶子らは、「プラン75」という制度の在り方に疑問を抱くようになる。年齢による命の線引きというセンセーショナルな題材を細やかな演出とともに描き、初長編監督作にして第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品。初長編作品に与えられるカメラドールのスペシャルメンション(次点)に選ばれた。ミチ役で倍賞千恵子が主演。磯村勇斗、たかお鷹、河合優実らが共演する。

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監督: 早川千絵
脚本: 早川千絵
脚本協力: ジェイソン・グレイ
出演: 倍賞千恵子磯村勇斗たかお鷹河合優実ステファニー・アリアン大方斐紗子串田和美
日本,フランス,フィリピン,カタール / 日本語
(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

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映画レビュー

清藤秀人

PRO

設定と演出とキャスティングの妙

清藤秀人さん | 2022年6月19日 | PCから投稿

勿論、間近に迫る日本の近未来を見据えた視点には震えるものがある。75歳を過ぎると自ら生死を取捨選択できる制度が導入された社会というのは、実際、年金制度の見直しが決定したこの国では、すでに近未来ではないからだ。

しかし、本作のリアルはより細部に宿る。ある日突然、高齢を理由に解雇された78歳のヒロインが、役所に出向いて『まだ、働きたい』と申し出ても、担当者は年齢を理由に彼女の意向を遮断してしまうシーンには、行政の冷酷さと、まだ生かせる労働力を適切に社会に還元できない政治の対応力の遅さがあからさまなのだ。そういう意味で『PLAN 75』がいかに短絡的な制度かがよく分かる。

細部がリアルなのは、演技者たちのスキルに負うところも大きい。政治への疑問や不満を声高に訴えられず、未来へのわずかな希望に縋って生きる主人公は、これまで、庶民の喜びと悲しみを映画を介して代弁して来た倍賞千恵子ならではの役どころだし、『PALN 75』の申請窓口で働く青年を演じる磯村勇斗の、老人たちに対する優しい目線には、思わず引き込まれるものがある。

すぐそこまで来ている厳しい現実が、俳優たちの魅力によってより身近なものに思える。本作の高評価は監督の演出力とキャスティングによるものだと思う。

高森 郁哉

PRO

想像と解釈を喚起する「余白」の巧みさ

高森 郁哉さん | 2022年6月18日 | PCから投稿

これは、少子高齢化のような“正答”のない難題に直面したとき、誰もリスクと責任を取って解決にあたろうとせず、ひたすら先延ばしにしようとする日本的なメンタリティへの静かな抗議ではないか。本作を観ながらそんな風に思っていたのだが、鑑賞後に資料を読むと、早川千絵監督の意図は違うところにあったようだ。本作を着想するきっかけのひとつに、2016年に相模原で起きた障害者施設殺傷事件があり、「人の命を生産性で語り、社会の役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方」への危機感が、映画を作る原動力になったとしている。

とはいえ、75歳以上が自ら生死を選択できる制度が施行されている近未来の日本を舞台にした本作は、特定の意見や主義主張を明示する映画ではない。登場人物らの苦悩や心の触れ合いを描いているが、彼らに思いのすべてを語らせるのではなく、観客のさまざまな想像や解釈を喚起する“余白”が大いにある。1983年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作「楢山節考」で描かれた姥(うば)捨ての風習を想起する人もいれば、スイスやオランダなど一部の国で合法化されている安楽死と関連付ける人もいるだろう。この国では安楽死について口にすることさえタブーのような空気があるが、本作をきっかけに議論が活発化するなら良いことだと思う。

本作の主演に倍賞千恵子をキャスティングした点にも感心させられた。当たり役は「男はつらいよ」シリーズでの寅次郎の妹“さくら”であり、高度成長期に日本の国花の役名で知られた女優が、本作では衰退する日本、“日(ひ)没する国”を象徴するようなミチを演じているのだ。このアイロニカルな巡り合わせに思いをはせる観客も多いのではないか。