愛する人に伝える言葉
第47回セザール賞最優秀主演男優賞受賞のヒューマンドラマ
カトリーヌ・ドヌーブ×ブノワ・マジメル共演、ガンで余命宣告を受けた男とその母が穏やかに死と対峙していく姿を描く。
映画レビュー
PRO
最後の瞬間をどう生き抜くかを真摯に見つめる
牛津厚信さん | 2022年10月16日 | PCから投稿
終末医療を題材にするということは、少なからず死と向き合うことを意味する。作り手にとっても、観客にとっても、それは一見、暗くて長いトンネルのように思えるが、この映画が静かに胸を揺さぶるのは、いかに死ぬかではなく、最後の瞬間を「どう生きるか」を描ききっているからだろう。それは決して孤独な戦いではない。ドヌーヴ演じる母もいれば、実際の医師のガブリエル・サラ演じる主治医、看護師たちがいる。それからブノワ・マジメル演じる主人公の「演技講師」という職業もまた深みをもたらす。若い俳優の卵たちに「いかに自分を解放して役を生きるか」を情熱的に教える彼の姿は、まさに自身がありのままに生命と向き合おうとする投影であり、なおかつ後進へ残すことのできる遺言にさえ思えてならない。そして何より医師の言葉が力強い。それは気休めではなく、空虚な希望でもなく、最後の瞬間を生き抜く知恵と覚悟と勇気をもたらしてくれるかのようだ。