この子は邪悪
南沙良主演、「なにわ男子」大西流星が共演、片岡翔監督・脚本のサスペンス
「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017」準グランプリ作品の映画化。
映画レビュー
PRO
不穏な空気と世界観に浸食される
牛津厚信さん | 2022年9月27日 | PCから投稿
原作モノの映画が多い日本で、このようなオリジナル作品が製作されることの意義は大きい。タイトルから伝わるニュアンスどおり、冒頭から何やら不穏な空気が張り詰める本作。善良な医師と彼が診療を行う古びたクリニック、そこで飼われている無数のウサギ、家族、仮面の少女、気がつくと耳の奥深くへ染み渡ってくる鈴の音色・・・これら作り込まれた独特の世界観が胸を絶えずザワつかせ、一体どこに連れて行かれるのかわからないまま、怪しさにじわじわと浸食される自分がいた。すべての原因を作り出す(ネタバレになるので詳述はしないが)側の演技力もさることながら、劇中でそれを受ける側のリアクションも決して単調に陥ることなく、透明感の中に一筋の意志を秘めた目線で、観客の心をしっかり寄り添わせる。ちなみに個人的に、後半の展開を受けて自ずと「あの映画」のことを思い出したのだが、なんらかの影響やインスピレーションを受けているのだろうか。
PRO
「タイトルの意味はどういうことなのか」と考えながら見る。序盤の不気味な世界観が徐々に明らかになるが「なるほど」と思えるサスペンス映画。
細野真宏さん | 2022年9月1日 | PCから投稿
冒頭の不気味な人物らが意味不明で、当初は「よく分からないホラー映画なのかな?」と若干不安を覚えました。
ただ、本作は、オリジナル作品の企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017」準グランプリ作品の映画化で、この賞を受賞した作品はクオリティーが確保されたものが多い印象です。
そのため、「きっと何か光るものがあるはず」と信じて見続けましたが、正解だったようです。
徐々に「謎解きサスペンス映画」の様相になっていき、キチンと納得できる出口が用意されている点で、本作はサスペンス映画として十分な独自性がありました。
南沙良、大西流星、玉木宏らの演技も良く、世界感を上手く構築していました。
評価は★3.5か★4で悩みましたが、「監督」としては実質的にデビュー作のような状況なので期待を込めて★4に。
「ホラー映画」のような作品を、説得力を持ち合わせた「謎解きサスペンス映画」にするのは難易度が高いですが、工夫の仕方で巧く作れることを示せたのが本作の功績でしょう。
PRO
新世代サスペンスホラーの潮流が日本にも
高森 郁哉さん | 2022年8月30日 | Androidアプリから投稿
2010年代後半の米国発ホラーの新たな潮流を好ましく思っていた。具体的には、デビッド・ロバート・ミッチェル監督の「イット・フォローズ」(2016)、ジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」(2017)と「アス」(2019)、アリ・アスター監督の「ヘレディタリー 継承」(2018)など。共通するのは、異形のクリーチャーや人間離れした猟奇殺人鬼が次々に登場人物を派手に虐殺していったり、突然の大音響で驚かせたりするような、根っこの部分はアトラクションのお化け屋敷から変わらない前時代的な怖がらせ方に頼るのではなく、観客の想像力をじわじわと刺激する状況や出来事を効果的に積み重ね、抑制された演出と印象的な映像で提示するスタイルだろうか。
「この子は邪悪」は、そんな米国発の潮流に呼応したかのような新感覚サスペンスホラーだ。TSUTAYAのコンテストで2017年に準グランプリを受賞した企画だそうだが、片岡翔監督は脚本作りに4年、30回以上の改稿を重ねたとか。練りに練られた脚本は無駄がなく(この内容を100分に収めたのも見事)、たとえば町で多発する奇妙な精神疾患風の人々の症状にしても、しっかり伏線になっている。
演出手法などには洋画ホラーの影響があるとしても、日本人になじみ深い死生観や、肉体と魂の関係、輪廻思想にもつながるような要素を織り込んだのも、よりリアルな恐怖を感じさせるポイントだろう。傑作「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で蒔田彩珠とダブル主演した南沙良が、本作でも好演。ホラーファン以外にもおすすめしたい一本だ。