映画レビュー

PRO
犯罪を描く難しさ
杉本穂高さん | 2022年5月31日 | PCから投稿
犯罪者を語ることの難しさをひしひしと感じる作品だ。そして、その難しさは誰かが引き受けねばならないのだという作り手の責任感もひしひしと感じる。発達障害と思われる主人公が大量殺戮を犯す、このことだけで本作を語るのは難しい。差別的感情を抱かせずに犯人の心のあり様に迫るという難題を、挑まなければいけない。
この映画を観る時、主人公のマーティンをどのように理解すべきか。本作は、理解と共感を分けながら、注意深く鑑賞する必要がある。友人のいないマーティンの孤独、破綻した親子関係、唯一彼に救いをもたらす母親と同世代の女性ヘレンとの関係を否定されること。同情ではなく、彼を追い詰める社会の構造や常識のメカニズムを理解していかなくてはならない。社会に適応して生きることはそんなに偉いことなのか、この映画を観ているとよくわからなくなっていく。社会は実りのない場所だ、実りはないけど、みんなが生きるプラットフォームだから壊すわけにはいかない。しかし、どんな社会にも馴染めずに排斥されてしまう人はいるのでこうした暴発は社会を維持する必然として、時折発生してしまう。とてもしんどい気分になるが、直視するしかない社会の実像がここには描かれている。

PRO
主人公と関わる脇役たちがとても忘れ難い
牛津厚信さん | 2022年3月29日 | PCから投稿
'96年にタスマニア島で起こった銃乱射事件の犯人をめぐる物語である。個人的なことを言わせて貰えば、テーマがテーマなだけに鑑賞時かなり覚悟が要った。だが実際に見始めると、不思議と映像から目が離せなくなると言うか、この主人公が犯行に及んだ心の内側を知りたいという想いが湧いた。本作は決して残虐性をあらわにした物語というわけではない。むしろその直前までの過程を紡いだ作品。主人公の精神性は凪の海面のように穏やかな時もあれば、不協和音を爆発させて手のつけられなくなることもある。そこに付随する両親との関係性、追い出された学校、土地購入の問題、ふとしたことで知り合う男友達、そして謎の女性。主演のケイレブの演技は繊細かつ観る者の心をかき乱すヒリヒリした感触で一杯だが、その一方、謎の女性を演じたカーゼル組の常連、エッシー・デイヴィスの存在感が秀でている。彼女は一体何者だったのか。いまだに気になって仕方がない。

PRO
Sad and Dark
Dan Knightonさん | 2022年2月28日 | PCから投稿
There is virtually no joy to be pulled from Nitram, an account of the man who committed a mass shooting in Tasmania. His mental illness is singular, an untreatable recluse who mows lawns and plays with fireworks in the bush. The movie is a linear descent into the unfortunate historical moment, which surprisingly is skipped altogether. At best will have you saying, "I didn't know about that."