映画レビュー
PRO
仕掛けとドラマ性を両立させた良作
牛津厚信さん | 2022年10月31日 | PCから投稿
この映画について語る時には、自分でも気づかないうちに真相に触れてしまう可能性があるので注意が必要だ。このミステリーを存分に楽しみたいならば、何も情報を入れずに臨むことをお勧めするーーー。
後から振り返ると、極めてシンプルな構造ではあるものの、シンブルな中で的確に仕掛けとドラマ性を両立させているのが大きな強み。その点、観る者を楽しませるだけでなく、一つの完成されたフォーマットとして国外リメイクされゆく未来さえたやすく目に浮かんでくるかのよう。また、何が真実なのかなかなか判明しない本作では、”家”もしくは”住居”が印象を刻む。それこそ夫婦が暮らすマンションもそうだが、建設途中で廃墟と化したドリームタウンといい、はたまたカナダの湖畔に建つ家といい、それらが象徴するものもまた作品を紐解く上で欠かせない鍵と言えそうだ。伏線やディテールがどう回収されているのか、もう一度見返してみたくなる作品である。
PRO
ミスディレクションの巧みさ
高森 郁哉さん | 2022年10月30日 | PCから投稿
始まって早々に不可思議なことが立て続けに起きるので、これはもしかしたらユアン・マクレガー主演作「ステイ」のような仕掛けだろうかと思ったが、ほぼ違った。観客の多くも、記憶喪失になったスジンが見ること、体験することを追いかけながら、こんな仕掛けかな、あんなトリックかなと仮説を立てては一喜一憂するはず。一筋縄でいかないのは間違いない。
「ソードフィッシュ」で悪党のジョン・トラボルタが何度か口にした“ミスディレクション”を思い出した。答えの糸口だと思い込みそうな偽情報をわざと提示して、相手を間違った方向に導くこと。本作で長編デビューという女性監督(兼脚本)ソ・ユミンは、このミスディレクションが巧みなのだ。
なるべく事前情報を仕入れず、知的パズルのような迷宮に楽しく翻弄されていただきたい。ネタバレ防止に関して、配給や宣伝担当から「~について言及するのはご遠慮ください」などと協力を求められることはままあるのだが、本作のケースはちょっと唖然とした。「1:10 頃~本編終了まで=スジンが少女に声をかけるシーンからラストまで」は書かないで、というのだ。さすがに、信頼しなさすぎではなかろうか。工夫しながら見所や魅力を伝えたいと思っても、これでは書きようがない。苦言を呈しておきたい。
PRO
映画が“記憶の装置”であることを再認識するサスペンス
和田隆さん | 2022年10月27日 | PCから投稿
韓国ドラマ「サイコだけど大丈夫」のサイコなドSキャラを魅力的に演じ、日本でも一躍人気女優となったソ・イェジ。彼女が演じる記憶を失っていた主人公スジンが、徐々に記憶を取り戻して事件の真相に迫っていくだけでなく、ドラマは二転三転し、ノンストップで展開。フラッシュバックでスジンが思い出す記憶や、現実に起きる不可解な出来事に、デジャブ(既視感)のような幻覚=未来が複雑に絡み合い、その映像(編集)を見ている者にも混乱をもたらしていく。
先ほど見たシーンは本当にスジンの記憶なのか、それとも夫ジフンの作り話なのか、見えてしまった幻覚は未来に起きることなのか。観客はそれらの映像のパズルを組み合わせていくうちに、改めて映画が“記憶の装置”であることに気づくだろう。