MEMORIA メモリア

   136分 | 2021年 | G

「ブンミおじさんの森」などで知られるタイの名匠アピチャッポン・ウィーラセタクンが「サスペリア」のティルダ・スウィントンを主演に迎え、南米コロンビアを舞台に撮りあげ、2021年・第74回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したドラマ。とある明け方、ジェシカは大きな爆発音で目を覚ます。それ以来、彼女は自分にしか聞こえない爆発音に悩まされるように。姉が暮らす街ボゴタに滞在するジェシカは、建設中のトンネルから発見された人骨を研究する考古学者アグネスと親しくなり、彼女に会うため発掘現場近くの町を訪れる。そこでジェシカは魚の鱗取り職人エルナンと出会い、川のほとりで思い出を語り合う。そして1日の終わりに、ジェシカは目の醒めるような感覚に襲われる。共演に「バルバラ セーヌの黒いバラ」のジャンヌ・バリバール。

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監督: アピチャッポン・ウィーラセタクン
脚本: アピチャッポン・ウィーラセタクン
撮影: サヨムプー・ムックディープロム
出演: ティルダ・スウィントンエルキン・ディアスジャンヌ・バリバールフアン・パブロ・ウレゴ
英題:Memoria
コロンビア,タイ,イギリス,メキシコ,フランス,ドイツ,カタール / 英語、スペイン語
(C)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.

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映画レビュー

杉本穂高

PRO

音の映画

杉本穂高さん | 2022年5月31日 | PCから投稿

映画の「音」とは映像の従属物に過ぎないのか否か。近年、それを覆そうと試みる、音を優位に置いた映画作品が散見されるようになってきた。電話の音だけで事件を解決する『THE GUILTY/ギルティ』などがそうだが、本作も映像以上に音の方が物語に核心に迫っている作品だ。誤解を恐れず言い切ってしまうと、映像に映っているものより聞こえる者の方がはるかに重要な位置を占めている。
主人公の脳内に響く音の正体はなんなのか、それは映像では全く切り取ることのできない、壮大なイメージを観客に与え、想像力を無限に広げてくれる。映像は具象的な表現だが、音は抽象的な表現。あらゆるものが映像化されて、見たことのないものを提供することが困難になりつつある時代、観客が体験したことのない未知の世界を提供できるのは、映像よりもむしろ音なのだとこの映画は教えてくれる。

牛津厚信

PRO

アピチャッポンらしい悠久の時間と陶酔と

牛津厚信さん | 2022年3月4日 | PCから投稿

アピチャッポンの映画には眠りと陶酔がある。それほどまでに心地よく、なおかつ、その向こうで深淵に繋がっているかのような神秘性を持つと言うべきか。舞台をいつものタイからコロンビアへ移した本作は、耳元で爆発音が鳴るのを感じる主人公の物語。サスペンスか、ミステリーか、超常現象ものか。頭の中をハテナで一杯にしながら、アピチャッポンらしい心地よい時間と空間に身を浸していく。本作を理路整然と言葉で説明することは困難だ。でも我々は頭で考えることに決して固執せず、心で感じることができる。私は本作で太古に刻まれた記憶の声に耳を澄ませたり、他人と対話したり、自然に身を委ねたり、はたまた音響技師が効果音を使って爆音を再現したりする中で、なぜだかふと「映画の本質」に触れたような鮮烈なイメージに貫かれるのを感じた。映画とはつまり、記憶を発見し、再現し、そして共有する作業ではないかと、この作品に包まれながらそう思った。