ナワリヌイ

   98分 | 2022年 | G

ロシア反体制派のカリスマ、アレクセイ・ナワリヌイを追ったドキュメンタリー。プーチン政権への批判で国内外から注目を集め、若年層を中心とする反体制派から支持を集める政治活動家ナワリヌイ。政権にとって最大の敵と見なされた彼は不当な逮捕を繰り返され、巨大な力に追い詰められていく。そして2020年8月、ナワリヌイは移動中の飛行機内で何者かに毒物を盛られ、昏睡状態に陥る。ベルリンの病院に避難し奇跡的に一命を取り留めた彼は、自ら調査チームを結成して真相究明に乗り出す。「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」のダニエル・ロアーが監督を務め、暗殺未遂事件直後からナワリヌイや家族、調査チームに密着。事件の裏に潜む勢力を驚きの手法で暴いていくナワリヌイの姿を捉え、ロシア政府の暗部に切り込んでいく。サンダンス映画祭2022でシークレット作品として上映され、観客賞とフェスティバル・フェイバリット賞をダブル受賞した。

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監督: ダニエル・ロアー
製作: オデッサ・レイ ダイアン・ベッカー メラニー・ミラー シェーン・ボリス
製作総指揮: エイミー・エンテリス コートニー・セクストン マリア・ペブチク
出演: アレクセイ・ナワリヌイユリヤ・ナワリヌイマリア・ペブチククリスト・グローゼフレオニード・ボルコフ
英題:Navalny
アメリカ / ロシア語、英語
(C)2022 Cable News Network, Inc. A WarnerMedia Company All Rights Reserved. Country of first publication United States of America.

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映画レビュー

高橋直樹

PRO

SNS社会で“ファクト”と“フェイク”の狭間を目撃する。

高橋直樹さん | 2022年7月29日 | iPhoneアプリから投稿

ロシアがソ連と化して久しい。いつその変節が訪れたのかはプーチンの論文を当たるに越したことはないのだろうが、今はその時間がない。反体制の急先鋒であるナリヌワイと家族に密着したCNNのドキュメンタリーを観ていると、現在のウクライナのリーダー、ゼレンスキーと同様に、紙一重の危うさを覚える。
SNSの急速な浸透によって、誰もが発信者となり、メディア的な存在になることが容易くなった。プロとアマの境界線は曖昧になり、フォロワー数によってその存在価値も定められる。

2022年7月28日時点の著名な政治家、機関のTwitterフォロワー数は下記の通り。
バイデン 3,492.7万 フォロワー
*マーヴェル 1,548.5万 フォロワー
ホワイトハウス 732.4万 フォロワー
*トム・クルーズ 695.4万 フォロワー
ゼレンスキー 642.5万 フォロワー
ロシア大統領府 360.3万 フォロワー
ナリヌワイ  296.8万 フォロワー
NATO 151万 フォロワー
*は映画関連の指標として参照されたし

圧倒的な数の信奉者(フォロワー)に向かって放たれるメッセージはどこか偏っているのではないか。そんな疑問符が浮かぶ。ドナルド・トランプがそうであったように、“ファクト”と“フェイク”の狭間にある思惑が透けて見えてくるような気がしてならないのだ。

ドキュメンタリー『ナリヌワイ』は断然面白い。世界中の誰もが知る毒殺未遂事件、まさにクレムリンの陰謀を予知したかのような事件前後の密着映像がもたらすスリリングな映像は緊張感に満ちて片時も目が離せない。全世界がことの成り行きを見つめた劇場型犯罪であるだけに、その裏側で何が行われていたかを“目撃”することでボルテージは上がりっぱなしになる。
そして、本編を観終わった時には、紛れもなく彼は孤高のヒーローとして眼前にあり、帰国後の収監からいつ解放され、再び野に降りたつ日を待ちわびる気分に満たされるのだ。

だが、急いではならない。得体の知れない高揚感に包まれたときこそ、心の片隅にある疑問符を無視してはならないと自戒させられる作品でもある。表があれば裏があり、決して撮(うつ)されることのないこともあるはずだから…。

清藤秀人

PRO

スパイサスペンス紛いのスリルに心がざわつく

清藤秀人さん | 2022年6月22日 | PCから投稿

2020年8月に8月に起きた暗殺未遂事件からの、ドイツの病院での復活、そして、ロシアへの再入国と逮捕。メディアを介して紹介されたそれらの衝撃的な事件と共に記憶されるロシアの反体制活動家、ナワリヌイ。ロシアvsウクライナ戦争の勃発と共にその存在が過去のものになりかけていたこのタイミングで、いったい、彼の身に何が起こったのかを検証する本ドキュメンタリーが公開された意味は大きい。この現実を多角的に捉えるために必要だからだ。

興味深いのは、ナワリヌイがジャーナリストと市民の有志たちで構成される調査組織"ヘリングキャット"の協力を得て、暗殺に加担したと思しき容疑者たちに"直接"電話をかけて、意外と簡単に真実を炙り出していく過程だ。まるで演出されたかのような、スパイサスペンス紛いのスリルが、ロシアにまつわる一連の出来事の未だ不透明な本質を暗示しているようで、心がザワザワするのだ。

ロシアにはナワリヌイのような反体制活動家がいて、戦争反対を唱える市民もいる。でも、依然として戦争は終わりそうにない。それでも希望はある。率直にそう感じさせる出色のドキュメンタリー映画だ。

高森 郁哉

PRO

プーチンに暗殺されかけ、現在収監中の“未来のリーダー”をドキュメンタリー映画で観る同時代感覚

高森 郁哉さん | 2022年6月19日 | PCから投稿

ともすると“悪のロシアvs正義のウクライナ”のように物事を単純化して見てしまいがちだが、ロシア人にもいろんな人間がいる、というごく当たり前のことを改めて思い知らされるドキュメンタリーだ。2020年8月に起きた暗殺未遂事件は日本でも報道され目にしていたものの、ナワリヌイという固有名詞を含めすっかり忘却の彼方だったが、その後の一連の出来事がこんなにもスリリングかつドラマティックで、なおかつ独裁国家の下で体制と闘う個人がここまで勇気と覚悟を示し得るのか、と驚かされっぱなしの約1時間半だった。

すでに多くの人が書いているように、各国のジャーナリストなど市民有志が参加するオープンソース調査組織「べリングキャット」の支援により、オンラインの闇市場から事件前後の搭乗客リストなどの情報を入手し、暗殺実行部隊の容疑者たちを絞り込み、彼らにナワリヌイが自ら電話していく一連の流れは、ありがちなスパイアクションをはるかにしのぐ緊迫感に満ち、ぐいぐいと引き込まれる。

ナワリヌイはドイツの病院で回復したのち、ロシアに戻れば拘束、収監されるのを承知で、マスコミを引き連れて帰国の途につく。2021年1月から現在まで収監中のナワリヌイは、21世紀に強大な力を握る独裁政権に個人が立ち向かうための方法を示しているのだと思う。マスメディア(この映画も当然含まれる)、インターネット、SNSを駆使し、情報を可視化することで、権力の横暴を牽制する。プーチン体制が崩壊し、ナワリヌイが指導者になる時代が来るなら、ロシアもきっと真っ当な国家として立ち直ると期待させる、ポジティブな希望が込められた力作だ。