映画レビュー
PRO
その風景、人々にじっと見入ってしまった
牛津厚信さん | 2021年12月15日 | PCから投稿
これほど国後島の姿をまざまざと目にするのは初めての経験かもしれない。旧ソ連時代のベラルーシで生まれ、現在はフランスに住むというコズロフ監督が、ロシア連邦保安庁の特別許可を取り付けてカメラを回したという本作。となると、制作体勢としてかなりロシア側の意向に沿った作品に陥りがちな気もするが、完成したこの映画には、意外なことにロシアにとって都合の悪い言い分さえ含まれていて驚いた。その点、さすがフランス映画と言うべきか。本作が映し出す国後島には、美しく豊かな自然や風景があるし、普通に暮らしている人々だって多くいる。と同時に、戦争の残骸が今なお残り、社会に置き去りにされたみたいに不便な暮らしを余儀なくされる人がいて、ゴミの投棄で荒れ果てた場所もあるようだ。島民の一人がこぼす一言はとても複雑な余韻を残す。とはいえ、これは決して政治的な映画ではない。難しい話を抜きにして、じっと見入ってしまえる作品である。
PRO
国後島の今をとらえた貴重な映像。根室で撮影予定の次作の完成も待たれる
高森 郁哉さん | 2021年12月2日 | PCから投稿
中国や北朝鮮ほどではないにせよ、プーチンの実質的な独裁体制が長期におよぶロシアに関して、政治や施策を批判したり異を唱えたりすることは相当な勇気がいる。批判的な言動を行った政治家や表現者が直接・間接の制裁を受けたり、外国で暗殺が疑われる不審死を遂げたりするケースも時折報道で伝わってくる。まずは、ソ連時代のベラルーシに生まれ、1985年の「炎 628」には助監督として参加し、現在はフランスで活動するウラジーミル・コズロフ監督が、千島列島(ロシア側の呼称はクリル列島)に属する国後島の現在を偏りなく映し出そうとするこのドキュメンタリーを作ったことに敬意を表したい。
コズロフ監督は当局の許可を得て国後島に上陸し、そこで暮らす人々や労働者、役人たちにインタビューし、うらさびしい島の現状を淡々と撮影していく。島民たちの口からは、政府が国後島を領有しているのは漁業権が主目的で、生活する国民のためにインフラを整備したり観光開発したりする気がないことに対する不平が聞かれる。ある女性は何十年もトイレのない家に住んでいるとこぼす。
1945年8月にソ連軍の部隊が島に上陸して日本軍兵士らが降伏した時の様子を再現するイベントが行われていて、やはり日本人としては複雑な思いがする。島の数少ない娯楽なのだろう、島民たちがほぼみな見物に来るとナレーションが入るが、彼らの表情はどこかうつろに見える。
監督は2部作にすると決めているといい、次作は国後島からわずか16kmの距離に位置する根室町で撮影予定だそう。コロナ禍で進捗に影響が出ているようだが、おそらく日本人側の北方領土に対する思いが主題になるであろう次作により、国後島と千島列島の現在が立体的に浮かび上がってくるはず。完成と公開を期して待ちたい。