シチリアを征服したクマ王国の物語
第72回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門公式上映作品
伊の作家ディーノ・ブッツァーティの名作児童文学を仏伊合作でアニメ映画化したクマたちのおはなし。※日本語吹替版のみの配信
映画レビュー

PRO
世界の歴史はこうなっている
杉本穂高さん | 2022年1月31日 | PCから投稿
世界とはこうなっているという、大変に的確な寓話。人間とクマが争っているシチリア。人間の国王は、独裁で人々を従えており、息子を助けたいだけのクマを暴力的に対応する。そんな人間たちにクマたちは知略を用いて戦を挑み、息子を奪還、さらに人々を圧政から解放する。シチリアは、クマが支配する国となる。
しかし、クマもまた権力を得ると、腐敗し、欲望にまみれていく。どんな正義の勢力も権力に吞まれるとおかしくなってしまう、善良だったクマでさえも。
世界の歴史は往々にしてそういうものだった。映画は、それに加えて若い世代の希望を描いている。クマと少女の絆を通して、それでも分かり合う努力は大切だと伝える。
この作品は、児童文学を原作した子供向けアニメーションと言っていいが、子ども騙しではない。世界がこうなっているんだということを、分かりやすく深く伝えている。本当の考え抜かれた子供向け作品は、大人の心すら撃ち抜けるという最良の見本だ。