映画レビュー
PRO
記憶の混濁が良い味を出している
杉本穂高さん | 2021年10月30日 | PCから投稿
本作の主な舞台となるのは、1939年のフランス国内でスペインからの難民を強制的に収容する施設だ。20世紀初頭の強制収容所といえば、ナチスの政策で作られたアウシュビッツなどのユダヤ人収容施設が有名だが、フランスとスペイン間にもそのような場所があったとは、あまり映画で描かれることは少ないかもしれない。
物語は、画家のジュゼップと看守のフランス人セルジュの友情を軸に、理不尽な現実を絵にし続けたジュゼップの魂を美しいアニメーションで描いていく。セルジュが孫に語り聞かせるという形式で語られるため、記憶の混同があり、それがアニメーションによって表現されるのが上手い。例えば、フリーダ・カーロが突然海辺に現れたり、トロツキーがメキシコにいたりする。この不確かさが本作の魅力となっている。むしろ、その記憶の混濁ぶりは、不自由で理不尽な現実から逃れて自由になる意思が働いているのではという気にさせる作品だ。ジュゼップ・バルトリという画家は、日本ではほとんど紹介されていないようだ。僕もこの映画で初めて知った。