幸せの答え合わせ

3.6    100分 | 2018年 | G

【先行特別配信最終日】オスカー女優アネット・ベニングとビル・ナイ共演の感動作

結婚29年目で離婚危機を迎えた夫婦と家族のほろ苦くあたたかなリスタートの先に輝く光とは?

幸せの答え合わせ

3.6 100分 | 2018年 | G

【先行特別配信最終日】オスカー女優アネット・ベニングとビル・ナイ共演の感動作

結婚29年目で離婚危機を迎えた夫婦と家族のほろ苦くあたたかなリスタートの先に輝く光とは?

オスカー女優のアネット・ベニングとビル・ナイが離婚の危機を迎えた熟年夫婦を演じ、「ゴッズ・オウン・カントリー」のジョシュ・オコナーが息子役で共演した家族ドラマ。イギリス南部にある海辺の町シーフォードで暮らすグレースとエドワードは、もうすぐ結婚29周年を迎えようとしていた。独立して家を出た一人息子のジェイミーが久しぶりに帰郷した週末のこと、エドワードは突然「家を出て行く」とグレースに別れを告げる。その理由を聞いてグレースは絶望と怒りに支配され、そんな母を支えるジェイミーも自身の生き方や人間関係を見つめ直していく。「グラディエーター」「永遠(とわ)の愛に生きて」でアカデミー脚本賞に2度ノミネートされたウィリアム・ニコルソンが、自身の実体験をベースに脚本を執筆し、自ら監督も手がけた。

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映画レビュー

清藤秀人

PRO

コロナ禍に見るべきロケーション・ムービーなのかも

清藤秀人さん | 2021年6月7日 | PCから投稿

イギリス南岸のドーバー海峡に突き出た石灰岩の絶壁が目に焼き付くイーストサセックス州シーフォード。かつて、『つぐない』(07)や『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)等が撮影されたこの地で、結婚29年目を迎えた熟年夫婦の破綻が描かれる。理由は、何事にも妥協を許さず、それを自分にも要求し続ける妻に、遂に夫が耐えきれなくなったからだ。しかし、妻側に全く罪の意識はない。長年のすれ違いが明確な結論として提示される夫婦の物語は痛烈だが、やがて、そこに親元を離れて暮らしていた息子が登場することで、視点が変わり、家族が歩んできた時間の尊さと、それが未来に繋がることが暗示される。要求が愛情の証だと信じる妻を演じるアネット・ベニング、安らぎを求めて冷徹な決断に至る心優しい夫をビル・ナイ、そして、親たちをふんわりと包み込む息子を演じるジョシュ・オコナー。適材適所の配役が、一筆書きできるようなシンプルな物語にニュアンス(行間)をもたらしているのは間違いない。そして、風景。岩がゴツゴツとした波打ち際や、絶壁の上に青々と生い茂る草たちが、画面に開放感を与えている。そういう意味で、これはコロナ禍に見るべきロケーション・ムービーかも知れないと思った。

牛津厚信

PRO

ベニング、ナイ、風景、詩の数々・・・素材の味わいをじっくり活かした家族ドラマ

牛津厚信さん | 2021年6月7日 | PCから投稿

これぞキャスティングの妙。30年間連れ添った夫婦役を演じるアネット・ベニングとビル・ナイが見事にハマっている。妻が「想いをきちんと言葉で伝えてほしい」と言えば、夫は「言わなくてもわかるだろ」と返す。夫の言葉をことごとく否定する妻。すっかり自信喪失しているようにも見える夫ーーー。それにしてもいきなり「出ていく」だなんて、彼の仕打ちは身勝手と取られても仕方ない。現実にはこんな問題を抱えつつ我慢して生きていくパターンが多いのかも。だが本作はあえて二人に別離の道を与えた上で、その先をどう歩むかを見つめようとする。舞台は英国南岸のシーフォード。太古より少しずつ波に削り取られた白い崖は結婚生活ですり減った心そのものだろうし、"Hope Gap"という地名も互いの価値観の違いを絶妙に象徴する。その情景を有名詩の数々がさらに深く彩り、まさに素材の良さを最大限に活かしたスープのような味わいに仕上がっている。

高森 郁哉

PRO

監督が両親の離婚という実体験を基に描いた真摯な家族劇

高森 郁哉さん | 2021年6月4日 | PCから投稿

アネット・ベニングとビル・ナイ、どちらもユーモラスな演技も得意とする名優だが、本作ではシリアスに徹し、結婚してから29年目にして重大な局面を迎えるシニア夫婦を演じている。ベニングが演じるグレースは、引退後に詩選集作りを始めるなど詩をこよなく愛するロマンティストで喜怒哀楽も豊か、信心深い理想主義者でもあり、夫や息子に対して不満があればはっきり言う。一方ナイが扮する歴史教師のエドワードは、家では寡黙で、妻にお茶を淹れてと言われれば文句も言わずに従い、夫婦の会話を避けるかのように自室に引っ込んでウィキペディアの書き込みに没頭している。都会で一人暮らす息子のジェイミーが父に呼び出され、週末に海辺の町シーフォードの実家に帰ると、エドワードは家を出ていくと言う…。

「グラディエーター」などの脚本で知られるウィリアム・ニコルソンが、成人してから両親が離婚するという体験に基づいて「The Retreat from Moscow(モスクワからの退却)」という戯曲をまず書き、そこから映画用の脚本も書いて監督を務めた。自身を投影したであろうジェイミーの心情も細やかに描いており、別居した両親の間で心を痛めながらもなんとか仲を取り持とうとし、その過程で自らも変化する息子の姿を示すことで、本作における救いや希望が託される存在に位置付けている。

エドワードが授業の中で言及する、1812年のナポレオン率いるフランス軍によるモスクワ侵攻後の退却のエピソードは印象的だ(戯曲の題もこの史実から取られている)。極寒の退路で、助からない負傷兵は軍服を脱がされ置き去りにされた。衰弱して馬車から振り落とされる兵士がいても、誰も振り返らなかった。なぜ劇中でこの話が語られるのか、いろいろ解釈は可能だろうが、離婚をある種の“撤退戦”に重ねたと考えるのもありか。状況をひっくり返すことはできない、ただ被害を少なくして生き残ることを優先するしかないのだと…。

なお、映画の原題は「Hope Gap」で、こちらはシーフォードに実在する海岸の地名から取られている。固有名詞なのだが、「希望の隔たり」とも読めて、パートナーに対する望みがかけ離れてしまった夫婦を表すようで皮肉めいている。

映画レビュー

清藤秀人

清藤秀人さん PRO
2021年6月7日 | PCから投稿

コロナ禍に見るべきロケーション・ムービーなのかも

イギリス南岸のドーバー海峡に突き出た石灰岩の絶壁が目に焼き付くイーストサセックス州シーフォード。かつて、『つぐない』(07)や『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)等が撮影されたこの地で、結婚29年目を迎えた熟年夫婦の破綻が描かれる。理由は、何事にも妥協を許さず、それを自分にも要求し続ける妻に、遂に夫が耐えきれなくなったからだ。しかし、妻側に全く罪の意識はない。長年のすれ違いが明確な結論として提示される夫婦の物語は痛烈だが、やがて、そこに親元を離れて暮らしていた息子が登場することで、視点が変わり、家族が歩んできた時間の尊さと、それが未来に繋がることが暗示される。要求が愛情の証だと信じる妻を演じるアネット・ベニング、安らぎを求めて冷徹な決断に至る心優しい夫をビル・ナイ、そして、親たちをふんわりと包み込む息子を演じるジョシュ・オコナー。適材適所の配役が、一筆書きできるようなシンプルな物語にニュアンス(行間)をもたらしているのは間違いない。そして、風景。岩がゴツゴツとした波打ち際や、絶壁の上に青々と生い茂る草たちが、画面に開放感を与えている。そういう意味で、これはコロナ禍に見るべきロケーション・ムービーかも知れないと思った。

牛津厚信

牛津厚信さん PRO
2021年6月7日 | PCから投稿

ベニング、ナイ、風景、詩の数々・・・素材の味わいをじっくり活かした家族ドラマ

これぞキャスティングの妙。30年間連れ添った夫婦役を演じるアネット・ベニングとビル・ナイが見事にハマっている。妻が「想いをきちんと言葉で伝えてほしい」と言えば、夫は「言わなくてもわかるだろ」と返す。夫の言葉をことごとく否定する妻。すっかり自信喪失しているようにも見える夫ーーー。それにしてもいきなり「出ていく」だなんて、彼の仕打ちは身勝手と取られても仕方ない。現実にはこんな問題を抱えつつ我慢して生きていくパターンが多いのかも。だが本作はあえて二人に別離の道を与えた上で、その先をどう歩むかを見つめようとする。舞台は英国南岸のシーフォード。太古より少しずつ波に削り取られた白い崖は結婚生活ですり減った心そのものだろうし、"Hope Gap"という地名も互いの価値観の違いを絶妙に象徴する。その情景を有名詩の数々がさらに深く彩り、まさに素材の良さを最大限に活かしたスープのような味わいに仕上がっている。

高森 郁哉

高森 郁哉さん PRO
2021年6月4日 | PCから投稿

監督が両親の離婚という実体験を基に描いた真摯な家族劇

アネット・ベニングとビル・ナイ、どちらもユーモラスな演技も得意とする名優だが、本作ではシリアスに徹し、結婚してから29年目にして重大な局面を迎えるシニア夫婦を演じている。ベニングが演じるグレースは、引退後に詩選集作りを始めるなど詩をこよなく愛するロマンティストで喜怒哀楽も豊か、信心深い理想主義者でもあり、夫や息子に対して不満があればはっきり言う。一方ナイが扮する歴史教師のエドワードは、家では寡黙で、妻にお茶を淹れてと言われれば文句も言わずに従い、夫婦の会話を避けるかのように自室に引っ込んでウィキペディアの書き込みに没頭している。都会で一人暮らす息子のジェイミーが父に呼び出され、週末に海辺の町シーフォードの実家に帰ると、エドワードは家を出ていくと言う…。

「グラディエーター」などの脚本で知られるウィリアム・ニコルソンが、成人してから両親が離婚するという体験に基づいて「The Retreat from Moscow(モスクワからの退却)」という戯曲をまず書き、そこから映画用の脚本も書いて監督を務めた。自身を投影したであろうジェイミーの心情も細やかに描いており、別居した両親の間で心を痛めながらもなんとか仲を取り持とうとし、その過程で自らも変化する息子の姿を示すことで、本作における救いや希望が託される存在に位置付けている。

エドワードが授業の中で言及する、1812年のナポレオン率いるフランス軍によるモスクワ侵攻後の退却のエピソードは印象的だ(戯曲の題もこの史実から取られている)。極寒の退路で、助からない負傷兵は軍服を脱がされ置き去りにされた。衰弱して馬車から振り落とされる兵士がいても、誰も振り返らなかった。なぜ劇中でこの話が語られるのか、いろいろ解釈は可能だろうが、離婚をある種の“撤退戦”に重ねたと考えるのもありか。状況をひっくり返すことはできない、ただ被害を少なくして生き残ることを優先するしかないのだと…。

なお、映画の原題は「Hope Gap」で、こちらはシーフォードに実在する海岸の地名から取られている。固有名詞なのだが、「希望の隔たり」とも読めて、パートナーに対する望みがかけ離れてしまった夫婦を表すようで皮肉めいている。