海辺の家族たち

海辺の家族たち

3.7    107分 | 2016年 | G

「マルセイユの恋」のロベール・ゲディギャン監督の集大成

父の最期の日々に向き合うため集まった3兄妹の人生を変える出会いを描く忘れられない感動作。

海辺の家族たち

海辺の家族たち

3.7 107分 | 2016年 | G

「マルセイユの恋」のロベール・ゲディギャン監督の集大成

父の最期の日々に向き合うため集まった3兄妹の人生を変える出会いを描く忘れられない感動作。

プレミアムスクリーン
配信期間: 2021年9月3日(金)~ 9月30日(木)

「マルセイユの恋」などを手がけたフランスの名匠ロベール・ゲディギャン監督の人間ドラマ。パリに暮らす人気女優のアンジェルは20年ぶりにマルセイユ近郊の故郷に帰ってきた。家業である小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、最近リストラされて若い婚約者に捨てられそうな下の兄のジョゼフ、兄妹3人が集まったのは、父が突然倒れたからだった。意識はあるもののコミュニケーションが取れなくなった父、家族の思い出が詰まった家をどうするかなど、たくさんの話し合うべきテーマを語りながら、それぞれが胸に秘めた過去があらわになっていく。町の人びとも巻き込んで、家族の絆が崩れそうになった時、兄妹は入り江に漂着した3人の難民の子どもたちを発見する。

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映画レビュー

牛津厚信

PRO

瞬時に魅了するのではなく、本当に少しずつ、じっくりと染み込んでいく

牛津厚信さん | 2021年5月29日 | PCから投稿

この映画のまなざしは、マルセイユ近郊の陽光あふれる”海辺の街”から片時も離れることがない。つまり冒頭からラストまで、全てがこの街の中で完結する物語。しかしそこには兄妹たちの久々の再会によってもたらされる様々な人生や時間の流れが感じ取られ、さらには海外からやってくる難民というファクターが、非常に興味深い”さざなみ”をもたらしていく。その点、この構造は瞬時に観る者を魅了するというよりは、ジワジワと心を掴んでいくといった方が当てはまるのかも。とくに中盤で思いがけない死が人々に暗い影を落とすあたりから、映画を取り巻く空気感や観る者を引きつける磁力が大きく変容していくのを感じてやまなかった。風景画を彩るように丁寧に吐息を重ねていく筆運びによって、この映画が終わる頃、ああもっと彼らの物語を観ていたい、と感じる私がいた。その時になってようやく、自分がこんなにも本作に魅了されていたことに気づかされるのだ。

高森 郁哉

PRO

ケン・ローチより小ぢんまりした作風がゲディギャンの持ち味

高森 郁哉さん | 2021年5月14日 | PCから投稿

労働者階級や移民・難民などの社会的弱者を描き続けていることから“フランスのケン・ローチ”と称えられているというロベール・ゲディギャン監督。確かに扱うテーマは似ているが、ローチ監督が弱い立場の人間の生き様を通じて国や役人や大企業の不公正や冷淡な仕打ちを非難するマクロの視座とメッセージ性を強く感じさせるのに対し、ゲディギャン監督はそうした大きな問題への意識を溶け込ませながらも家族や小さなコミュニティーに寄り添う、ミクロの視座が対照的だ。自身が生まれ育ったマルセイユとその近郊を諸作の舞台として撮り続けてきたのも、そんなミクロ寄りの姿勢に関係がありそう。ローチ監督作に比べて小ぢんまりした印象だが、それがゲディギャン監督作の持ち味にもなっている。

「海辺の家族たち」という題の通り、美しい入り江に面した小さな港町が本作の舞台。老いた父親が倒れたのを機に、父と実家で同居する長男のもとへ、教授職をリストラされた次男、人気女優でパリに暮らす末っ子が久しぶりに集まる。海は単なる美しい背景としてだけではなく、ストーリーに有機的に絡んでくる。女優のアンジェルを恋い慕うバンジャマンは漁師で、海の恵みを陸に届ける仕事。漁で得られた魚は、長男アルマンのレストランで供され、人々の糧となる。海は命をはぐくむ豊かさの一方で、人命を奪う無慈悲さもある。かつて海辺で起きた不幸が3兄妹と父親の関係を変えてしまう。海を越えてやってきた難民たちの一部も命を落とす。海は生の象徴であり、避けられない死の予兆でもある。この場所と外の世界とをつなぐ存在であることから、出会いと別れの舞台にもなる。

悲しみや憎しみや分断を克服する力として、愛と善に希望を託す本作。理想主義的ではあるが、大きな困難を前に無力を痛感して何もしないより、身近なところで小さな一歩でもいいから前に踏み出すことの大切さを静かに説いている。

映画レビュー

牛津厚信

牛津厚信さん PRO
2021年5月29日 | PCから投稿

瞬時に魅了するのではなく、本当に少しずつ、じっくりと染み込んでいく

この映画のまなざしは、マルセイユ近郊の陽光あふれる”海辺の街”から片時も離れることがない。つまり冒頭からラストまで、全てがこの街の中で完結する物語。しかしそこには兄妹たちの久々の再会によってもたらされる様々な人生や時間の流れが感じ取られ、さらには海外からやってくる難民というファクターが、非常に興味深い”さざなみ”をもたらしていく。その点、この構造は瞬時に観る者を魅了するというよりは、ジワジワと心を掴んでいくといった方が当てはまるのかも。とくに中盤で思いがけない死が人々に暗い影を落とすあたりから、映画を取り巻く空気感や観る者を引きつける磁力が大きく変容していくのを感じてやまなかった。風景画を彩るように丁寧に吐息を重ねていく筆運びによって、この映画が終わる頃、ああもっと彼らの物語を観ていたい、と感じる私がいた。その時になってようやく、自分がこんなにも本作に魅了されていたことに気づかされるのだ。

高森 郁哉

高森 郁哉さん PRO
2021年5月14日 | PCから投稿

ケン・ローチより小ぢんまりした作風がゲディギャンの持ち味

労働者階級や移民・難民などの社会的弱者を描き続けていることから“フランスのケン・ローチ”と称えられているというロベール・ゲディギャン監督。確かに扱うテーマは似ているが、ローチ監督が弱い立場の人間の生き様を通じて国や役人や大企業の不公正や冷淡な仕打ちを非難するマクロの視座とメッセージ性を強く感じさせるのに対し、ゲディギャン監督はそうした大きな問題への意識を溶け込ませながらも家族や小さなコミュニティーに寄り添う、ミクロの視座が対照的だ。自身が生まれ育ったマルセイユとその近郊を諸作の舞台として撮り続けてきたのも、そんなミクロ寄りの姿勢に関係がありそう。ローチ監督作に比べて小ぢんまりした印象だが、それがゲディギャン監督作の持ち味にもなっている。

「海辺の家族たち」という題の通り、美しい入り江に面した小さな港町が本作の舞台。老いた父親が倒れたのを機に、父と実家で同居する長男のもとへ、教授職をリストラされた次男、人気女優でパリに暮らす末っ子が久しぶりに集まる。海は単なる美しい背景としてだけではなく、ストーリーに有機的に絡んでくる。女優のアンジェルを恋い慕うバンジャマンは漁師で、海の恵みを陸に届ける仕事。漁で得られた魚は、長男アルマンのレストランで供され、人々の糧となる。海は命をはぐくむ豊かさの一方で、人命を奪う無慈悲さもある。かつて海辺で起きた不幸が3兄妹と父親の関係を変えてしまう。海を越えてやってきた難民たちの一部も命を落とす。海は生の象徴であり、避けられない死の予兆でもある。この場所と外の世界とをつなぐ存在であることから、出会いと別れの舞台にもなる。

悲しみや憎しみや分断を克服する力として、愛と善に希望を託す本作。理想主義的ではあるが、大きな困難を前に無力を痛感して何もしないより、身近なところで小さな一歩でもいいから前に踏み出すことの大切さを静かに説いている。