ドッグマン

   103分 | 2018年 | PG12

「ゴモラ」などで知られるイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督が、1980年代にイタリアで起こった実在の殺人事件をモチーフに描いた不条理ドラマ。イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬を愛する温厚で小心者の男マルチェロは、「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営している。気のおけない仲間たちと食事やサッカーを楽しむマルチェロだったが、その一方で暴力的な友人シモーネに利用され、従属的な関係から抜け出せずにいた。そんなある日、シモーネから持ちかけられた儲け話を断りきれず片棒を担ぐ羽目になったマルチェロは、その代償として仲間たちの信用とサロンの顧客を失ってしまう。娘とも自由に会えなくなったマルチェロは、平穏だった日常を取り戻すべくある行動に出る。主演のマルチェロ・フォンテが第71回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得したほか、イタリア版アカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞・監督賞など9部門を受賞した。

全文を読む

映画レビュー

牛津厚信

PRO

この小さな町、小さな人間関係に「世界」が透けて見えてくる

牛津厚信さん | 2019年8月23日 | PCから投稿

犯罪社会の実相をドキュメンタリー・タッチで描いた『ゴモラ』で注目を集めたガローニ監督だが、最近はその不条理感をファンタジーの領域にまで高めた作品が続いていた。で、今回の新作はというと、久々に小さな町の社会、リアルな人間関係を追求しつつも、観た人の誰もが「寓話的!」と評さずにいられない、一人の風変わりな男の心根に深く寄り添った怪作となった。

誰にでも厄介な友人は一人くらい存在するが、本作の「友人」は怪物クラスに厄介な男だ。関わった全ての人を不幸にするし、心を尽くして付き合っても必ず裏切られる。そんな時、我々はどこまで微笑みを絶やさぬキリストになれるのか。ヒョロッとしてギョロッとした主人公の職業が犬のトリマーという着眼点が面白く、ラストもまさに寓話的なオチが待っている。

この小さな町に、時々、世界が透けて見える。とりわけトランプ誕生後の世界政治は、まさにこれと瓜二つなのではないだろうか。