COLD WAR あの歌、2つの心
第71回カンヌ国際映画祭監督賞受賞、第91回アカデミー賞3部門ノミネート
冷戦下の時代に翻弄される恋人たちの姿を描いた心と五感を刺激する極上のラブストーリー。
映画レビュー
PRO
激動の現代史を意にも介さぬ男女の愛
村山章さん | 2019年7月30日 | Androidアプリから投稿
国策によって結成された歌舞団の指導者と新人として出会った男と女が、時代の流れに翻弄される。と、こう説明してもウソではないはずなのに、まったくそんな印象は残らない。この男女の痴話話は、もはや全体主義とか芸術の在り方とかそういうレベルを超越しているのだ。
あまりにも美しいモノクロ映像と音楽で綴られる男と女の遍歴は、確かに外的要因によって波瀾を増しているのだが、くっついたり離れたりを続ける主人公カップルにとって、そんなものは自分たちのややこしい恋愛を盛り上げるスパイスとしか感じてないようにも見える。
ミュージシャン同士のどうしようもない痴話話という意味でスコセッシの『ニューヨーク、ニューヨーク』を思い出したりもしたし、なんなら『天気の子』にも通じる部分があるように思う。とにかく「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」を地で行く唯我独尊カップルの姿を、面白いと思えるか否かが観客側の分かれ道だろうし、自分はこのワガママな恋愛を非常に楽しんで観た。楽しむ、というには暗い部分も多いが、それもまたアッパレな暗さだったように思う。
PRO
それは分裂の時代への鎮魂歌
清藤秀人さん | 2019年6月25日 | PCから投稿
冷戦時代のポーランドで出会い、恋に落ちたピアニストと歌手の運命は、やがて、東側と西側に引き裂かれ、引き裂かれても尚、会う場所を変えながら続いていく。しかし、2人に永遠の住処はない。時代の波が渦巻き、一旦それに飲み込まれたら、木の葉のようにたゆたうしかないのだ。今年のオスカーのダークホースとして注目された本作は、過ぎ去った出来事のようでいて、実は今も確実に存在している民族分裂の悲劇を、ラブストーリーに落とし込んで秀逸な出来映え。劇中に何度も歌われるポーランド民謡の多くが、添い遂げられない恋人たちの悲しみを訴えかけるもの。それはまるで、分裂の時代への鎮魂歌のようだ。