ペイン・アンド・グローリー
第72回カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、第92回アカデミー賞2部門ノミネート
スペインの名匠ペドロ・アルモドバルがアントニオ・バンデラスを主演に迎え、自伝的要素を織り交ぜつつ描いた人生賛歌。
映画レビュー
PRO
“人生を振り替えるお年頃”を肴にしたアルモドバルの万華鏡
村山章さん | 2020年6月29日 | PCから投稿
古くからの盟友A・バンデラスが演じる映画監督が、明らかにアルモドバルと同じ髪型をしていることからも、本作は自伝的作品と思われるだろう。実際、主人公のアパートは、アルモドバルが暮らしている住居で撮影されたという。
だとしたら、ある映画をきっかけに主人公と仲違いする人気俳優は、いったい誰がモデル? もしかして『アタメ』の頃のバンデラス? なんて深追いをしたくなるが、さすがはアルモドバル、簡単に謎が解けるような告白映画を撮ったりはしない。
いくつかの時代を振り返りながら人生の断片を俯瞰する構成がとりとめもないからこそ、余計にリアルに思えてしまうのも巧妙な引掛けに思えた。自分の人生をモチーフに、老境に差し掛かった感慨を描いてはいても、やはりこれは架空の世界であり、だからこそ純化されていて美しい。映画は現実に勝るのだ。
過去作でも使っていた手だが、メタな映画内映画で遊んでみせるあたりも、本当に映画作りを楽しんでいるのだなという気がする。
PRO
アルモドバルの最新作が観客を温かくもてなす理由
清藤秀人さん | 2020年6月28日 | PCから投稿
心身共に消耗し切っている映画監督が、過去に体験した切実で痛々しい恋愛や、愛してやまない母親への思いを再確認することで、再び創作意欲を取り戻していく。数ある職業の中でも、苦痛を創作の武器に換え、そこから作品を生み出せるのは、美術家か小説家、または、映画監督ぐらいではないだろうか。初の自伝とも言われる本作のために、作者のペドロ・アルモドバルは盟友のアントニオ・バンデラスに自身の分身と思しき主人公を演じさせ、自宅から所有しているアート(ギジェルモ・ペレス・ビジャルタの抽象画等)やインテリア(月の満ち欠けが楽しめるエクリッセ・ランプ等)や食器(エルメスのティーカップ等)を持ち出し、セットの中に自分が生きてきた時間と空間を見事に再構築している。稀代のアートコレクターとして知られるアルモドバルらしい舞台設定の下、語られる物語は、だからこそ観客を温かくもてなすのだろう。