映画レビュー
PRO
閉塞感漂う灰色の時代に、自由を歌うロックが精彩をもたらす
高森 郁哉さん | 2020年7月30日 | PCから投稿
ロシア映画といえば、重厚な人間ドラマ、戦争物、文学や芸術の香り高き作品が日本でも公開されてきたが、80年代ソ連を舞台にした青春音楽映画は相当レアだ。当時欧米のロックに影響を受けた音楽シーンがソ連で盛り上がっていた事実も、他の国ではマニア以外ほとんど知らなかっただろう。
人気バンド・ズーパークのボーカルでプロデュース能力もあるマイク、妻のナターシャ、マイクに才能を見出されるヴィクトル(のちに「キノ」のボーカルとして成功)という、実在の人物3人が話の中心。社会主義体制下で表現活動や聴衆の挙動まで統制される灰色の時代に、彼らが追い求める自由の象徴としてロックが鳴り響く。
劇中で流れるズーパークやキノの曲を知らなくても大丈夫。70~80年代洋楽のオリジナル音源やカヴァー演奏(T・レックス、ルー・リード、トーキング・ヘッズ等々)が意匠と遊び心に満ちた映像と共に流れ、音楽好きならきっと楽しめる。
PRO
文化統制下にスパークする西側音楽への思い、認め合う才能、躍動する演奏シーンに胸を射抜かれてやまない
牛津厚信さん | 2020年7月30日 | PCから投稿
80年代、レニングラード。そこには西側音楽に影響を受けた者たちのアンダーグラウンド・ロックシーンが存在した。物語はそこで出会うマイクとヴィクトルを軸に展開するが、わずかなやりとりで互いの才能を認め合う姿や、彼らが奏でる音色の豊かさもさることながら、仲間がこぞって海辺でギターを鳴らし歌を口ずさむ光景も青春の1ページのようで胸に沁みる。そしてモノクロームに色彩や落書きがほとばしる時、それは映像が現実から空想へと切り替わる合図だ。街中で高鳴るミュージカル調のトーキング・ヘッズ、イギー・ポップ、ルー・リード・・・。裏を返せば、これぞ鉄のカーテンを物ともせず、主人公の心情が西側の楽曲と極めてリアルにシンクロを果たす瞬間とも言えよう。もうとにかく、我々が預かり知らなかった文化や日常、そして人々の生き様が繊細に息づく本作。その音楽への飽くことなき愛と情熱、本能的な叫びに、終始心を射抜かれてやまなかった。