映画レビュー
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愛を組み立てるなら「ユニディ」へ
岡田寛司(映画.com編集部)さん | 2020年4月16日 | PCから投稿
窪田正孝の照る肉体、小西桜子の虚ろ、染谷将太の笑気、ベッキーの純情な狂気、そして濃密な各キャラが放つエネルギーが、全て「悪人総進撃!ユニディ大血戦」へと導かれていく。血沸き肉躍る展開には、思わず拳を突き上げたくなる衝動に駆られ、時折哀愁を感じてしまう。大型ホームセンター・ユニディには“生活必需品がなんでも揃っている”。しかし、登場人物の大半にとって、それらは必要がない。誰もが“生活”を考えていないからだ。目の前にある道具は、本来の用途とは別に、命の削り合いのみに使用されていく。“生活”を渇望する者だけが、ユニディを再訪出来る権利を得られるのだ。
タイトルには似つかわしくないバイオレンス描写が際立つが、2つの光景を目の当たりにして「なんて優しい映画なのだろう」と感じた。まずは、電車内で幻影を見ているモニカ(小西)に対して、レオ(窪田)が「(モニカのようにはなりたくないが)その幻影を見てみたい」と微笑みかける場面。侮蔑の視線を送らず、その立場を忌避しながらも、「私は、あなたの見ているものを、見てみたい」と願う。安易な理解よりも、よっぽど救いの言葉になると感じた。
2つ目は、レオとヤクザ・権藤(内野聖陽)が車中で交わした会話から生まれたもの。本作に登場する“クソ野郎”の多くは、重曹で煮詰めても溶解しないほど、徹底した“クソ”である。彼らが参戦する“悪”VS“悪”という構図が築かれるが、それを“個”に置き換えた時に示されるのは、互いへの理解を示せたかもしれない可能性。どんなところにも“分かり合える者”がいる――のかもしれない。全ては「たられば」の想像だ。だが、対峙するものを単色の「黒」と決めつける前に、その中にあるかもしれない「小さな白」の存在を信じる。その思考は、頭の片隅に置いておきたい。改めてそう感じてしまった。
余談:クライマックス~エンドロールへ至る過程が、本当に美しい情景でした。
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Vシネ時代のやんちゃな三池監督が帰ってきた!
高森 郁哉さん | 2020年2月28日 | PCから投稿
「DEAD OR ALIVE 犯罪者」などのVシネマ、「オーディション」「殺し屋1」での過激な暴力描写、初期の三池監督は先鋭的でやんちゃな表現者の印象だったのに、商業映画の大作を任されるようになり丸くなったようで寂しく思ったり、傑作漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の凡庸な映画化に失望したり。だが今作は違った。昔のままの破天荒な三池ワールドが横溢している。
スプラッター、切り株が苦手な人にはお勧めしないが、大丈夫ならきっと三池ワールドを満喫できるはず。鍛え上げた細マッチョな窪田正孝が、余命宣告されてヤケになり無謀な逃避行に走る展開も楽しい。笑いも随所にあるが、大森南朋がユニディに言及する台詞に一番笑った。「ウェインズ・ワールド」のプロダクトプレイスメントの風刺ネタを思い出した。
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洋邦問わず近年見た集団犯罪ドラマのベスト
清藤秀人さん | 2020年2月28日 | PCから投稿
KO負けを食らったボクサーが、街で接触したヤクザに囚われの身の少女を助けたことで、組織が扱うブツを横取りしようと企むヤクザ、そのヤクザと結託して甘い汁をすすろうとするやさぐれ刑事、ブツをめぐる攻防の過程で死んだ下っ端組員の恋人、チャイニーズ・マフィア、出所してきたばかりの組長とその手下等が、各々の欲と恨みを剥き出しにして蜂起していく。違う場所に住む人々が、きっかけになる出来事によって徐々に束ねられていくプロセスが絶妙なら、随所に散りばめられたユーモアと、すべてのキャラクターを無駄に消費することなく生かし切る脚本の気配りには、心底舌を巻く。抜群の展開力と意外性を含み一瞬も休むことなく疾走する集団犯罪アクションが、ここに完成した。近年見たこのジャンルの映画(洋邦問わず)としては、ベストではないだろうか。