ニューヨーク 親切なロシア料理店
「17歳の肖像」ロネ・シェルフィグ監督の人間ドラマ
困難な時代を生きる者たちへの温かな愛のエール。自分らしい生き方を見つけられる希望の物語です。
映画レビュー
PRO
共助の大切さ
杉本穂高さん | 2021年2月28日 | PCから投稿
コロナ禍で「自助・共助・公助」という言葉がよく使われた。格差拡大の現代社会では、自助では生きて行けない人がいるが、国が財政難では公助も絞られる。ならば、共助が大切ではないか。しかし、地域コミュニティも空洞化している今、どのような共助がありうるだろうか。
本作は、ニューヨークのロシア料理店に集う人々の共助を描いた作品と言える。夫の暴力から逃れて、2人の子どもを連れてNYの街で行き場を失っている。刑務所から出所したばかりの男をマネージャーに迎えたロシア料理店には、看護師をしながらボランティアでセラピストをしている女性はこのレストランの常連客。それぞれが様々な傷を抱えて生きているが、ふとしたことでこのロシア料理店で出会い、互いに助け合って生きていく。人は一人では生きていけない、助け合わないといけないという当たり前のことを描いた作品だが、役者の確かな芝居とデンマーク出身の監督らしい、リアリズムの演出で深く染み入る。今は失われた共助の大切を切々と伝えてくれる素晴らしい作品。
PRO
都市、異国情緒、群像劇の絡み合いに、シェルフィグらしい筆致が光る
牛津厚信さん | 2020年12月27日 | PCから投稿
一つの街を舞台に群像劇を紡ぐーーーそんな趣向の映画は腐るほどある。だが、大都市ニューヨークとその片隅のパッとしないロシア料理店を掛け合わせ、そこに集う人々の人生を慈しみ深く浮かび上がらせる手法には、北欧出身の名匠シェルフィグらしいタッチが光る。切実な理由を抱えてすがるような思いで逃げ込んできた母と息子たち。彼らの視点をすくい取り、地べたから見つめた都市の姿をありありと立ち上げていく様が興味深い。時に物語は胸をえぐるようなシリアスさにも傾くが、シェルフィグ監督はいわゆる”絶望”を描く人ではない。むしろ本作では、人と人とが微かなハーモニーを奏でるくだりで、ほんのりと幸福な温もりを灯す。夫にまつわる顛末をもっと丁寧に描くべきとの声もあろうが、逆に考えると、この温もりの映画に彼の居場所などなかったのだ。シェルフィグの作家性でもって彼を強制退場させたかのような早急な展開に、私は思わず笑ってしまった。
PRO
タイトルは、作品を見ると沁みてきます。予備知識不要です。まずは見てみてください!
細野真宏さん | 2020年12月11日 | PCから投稿
まず正直、本作のタイトルには惹かれませんでした。
ただ、原題は「The Kindness of Strangers」で、これもちょっと微妙かもしれません。
なので、本作は見てみるしかないのですが、見ると確かに、それぞれのタイトルの意味が分かります。
最初に、夫婦が2人で寝ていて、突然、妻が起きて2人の子供を連れ出して車でニューヨークへ逃げだします。
どうやら警察官の夫に対して、子供が嫌がっているのが原因のようです。
……と、このくらいで十分で、あとは物語に身を委ねてみてください。
展開が結構、自然で面白いです。
人と人とのつながり合いも描いています。それぞれのキャラクターが「あ~、いるな、こういう人」と興味深く、私にとっては「救急病棟でナースをしていて、その合間に教会でセラピーのボランティアなどをこなすアリス」が一番気になる存在でした。
本作を見ていて、なぜかキャストに存在感があって不思議でしたが、見終わったあとに資料を読んで分かりました。もちろんビル・ナイくらいは知っていましたが、それ以外の人達も「あ~、あの作品の!」という人ばかりで、意外と豪華であることを知りました。
アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされた「17歳の肖像」の監督作ということも納得の心温まる作品でした。