カセットテープ・ダイアリーズ
「ベッカムに恋して」のグリンダ・チャーダ監督が手掛けた青春音楽ドラマ
パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描く。
映画レビュー
PRO
いつの時代も音楽は若者をたぎらせる
杉本穂高さん | 2020年7月31日 | PCから投稿
いつの時代も音楽は若者の心をたぎらせる。そして音楽は人種を超える。イギリスの保守的な田舎の町に暮らすパキスタン系の高校生が、ブルース・スプリングスティーンの音楽に出会って、成長していく姿を爽やかに描いている。保守的な田舎町の人種問題も、音楽と若者というモチーフもありきたりだけど、ありきたりな作品に収まらない、輝きに満ちた作品だ。
ブルース・スプリングスティーンは、青春をテーマに歌ったり、社会派的なメッセージ・ソングを歌うこともあるミュージシャンだが、そんな彼の姿勢と本作の社会派+青春という姿勢は絶妙にマッチしていて、映画と音楽の幸福なカップリングが成立している。グリンダ・チャーダ監督の作品では『ベッカムに恋して』に近い作品だ。あれはインド系の少女の話だったが、こちらはパキスタン系の少年の話。民族的には近い両国には複雑な歴史があるが、その複雑さを『英国総督 最後の家』で描いている。イギリス・インド・パキスタンの3国の関係と複雑さ、引き裂かれた思いなどを背負って、こういう爽やかな青春映画を作るという姿勢が素敵だ。