ある人質 生還までの398日
過激派組織ISの人質となった若き写真家と救出に奔走した家族の実話
生と死の狭間で育まれる人質同士の友情、人間の尊厳と愛というテーマが浮かび上がってくる。
映画レビュー

PRO
デンマークにも自己責任論はあるのだろうか
杉本穂高さん | 2021年2月28日 | PCから投稿
何者にもなれない自分を抱えて生きるのは苦しい。そういう時に人は、蛮勇を出して大きなことをやってやろうと思ってしまう。本作の主人公の青年は怪我で体操選手の道を断たれた後に、カメラマンとしての道を歩み始めた矢先、シリアの戦場で誘拐される。まだジャーナリストと呼ぶほどの実績もなにもない「ワナビー」のような彼は、そこで地獄の体験をする。身を守る術もない彼のような駆け出しは誘拐犯にとって絶好の獲物だろう。
本作はISに人質にされた過酷な日々を赤裸々に描くと同時に、デンマークに残された家族が身代金を用意するため奔走する姿を描く。
デンマークは日本同様、テロリストに決して身代金を支払わないと決めている国だ。家族は寄付を募り、自力で身代金を用意する。デンマークの世論がその家族に対してどんな反応を示したのかははっきりとは描かれないが、苦悩に満ちた家族の表情が世論の厳しさを想像させる。やはり、デンマークにも自己責任論のようなものがあったのだろうか。

PRO
「平凡な日常」って、そんなに悪いことなのだろうか? 人生の指針を考える意味でも重要な作品。
細野真宏さん | 2021年2月18日 | PCから投稿
本作は、2013年から2014年の398日もの間、 過激派組織IS(イスラム国)に拘束され捕虜となった実在のデンマーク人を描いていて、デンマークのアカデミー賞(ロバート賞)で主演男優賞、助演女優賞、 観客賞、脚色賞を受賞しています。
作風は、スウェーデン版「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(2009)の監督作品なので、分かりやすく出来は良いです。
このIS(イスラム国)関連は、ニュースで頻繁に扱われていたので覚えている人も多いでしょう。ただ、現実には、「どこか遠くの争いだよね」と冷めた感じでいる人も少なくないと思います。
本作では最後の方で「内戦下のシリアでは100人以上の報道関係者が死亡」と出てきます。
この「最終的に死者が40万人を超えた争い」における悲劇を報道しようと、日本からも報道関係者が向かいました。
中でも2014年にISに拘束され、2015年1月30日に殺害映像がインターネット上で公開された後藤健二さんが大きなニュースになったりと、日本も決して他人事ではないのです。
私は、以前、ニュース番組のコメンテーターをしていた時に、後藤さんがディレクターで担当した回があったりと、それなりに面識がありました。紛争地域によく行っているという事は知っていましたが、まさかの出来事でした。このように世の中は思っているより狭いものなのです。
さて、本作は正直、キツいシーンもあります。ただ、その裏で家族らが追い込まれながらも必死に動いている様は、実に映画的です。そして、その厳しい出来事を映画の中で追体験する終盤に、「君は日常に戻る、退屈で平凡な毎日に」といったセリフが出てきます。
通常、このセリフから何か深い意味を見出すことはできないでしょう。ところが、本作を見ると、視界が大きく広がっていて「いかに深い意味をもつのか」が分かり、様々な事を考えさせられるのです。
そして、ラストへの展開は、実話ならではの深さがあり、感情が大きく揺れ動きます。
もちろん史実の追体験という意味でも大切ですが、私は、何気なく卑下してしまいがちな「日常」を考え直す意味で、とても大切な作品だと思います。

PRO
A Tragic Story the World Has Yet to Escape
Dan Knightonさん | 2021年1月19日 | PCから投稿
Daniel is the story of a gymnast-cum-journalist who finds himself captured by ISIS in Syria upon a good deed photo shoot in the war zone. He's tortured along with renowned journalist James Foley while is family in Denmark scrambles to find ransom money. In the grand scheme the film's conclusion is as gut-wrenching as the protagonist's experience. A painful reminder of the mess the "West" must fix.