映画レビュー
PRO
動く絵画、世界の再創造、人間観察、刹那と無限。
高森 郁哉さん | 2020年11月28日 | PCから投稿
恋人たちが廃墟の上空を漂うシャガールの「街の上で」など名画の数々が引用され、ワンシーンワンカットの完璧な構図と統制された色調はまさにムービングピクチャー(動く絵画)の味わいだ。一見野外での撮影に思えるシーンさえも巨大スタジオ内にセットを組み、模型やマットペイントで奥行きある背景を作り出すロイ・アンダーソン監督独特の手法は、自らの手で再創造した世界をフィルムに収めることへの執着を感じさせる。
実物大の箱庭とでも呼べそうな舞台で断片的に繰り広げられる人間の悲哀やささやかな喜びを、超越者のごとき視線で観察している趣さえある本作。スウェーデン語の原題は「無限について」を意味し、あるシーンでは男が女に「すべてはエネルギーであり形を変えても総量は変わらず、僕らのエネルギーは数百万年後に再び巡り会う」といった趣旨の話をする。宇宙のスケールから見れば人の生は一瞬だが、そのはかなさをいつくしむ愛がある。
PRO
ワンシーン、ワンカットで撮られた33の情景たち
牛津厚信さん | 2020年11月22日 | PCから投稿
近年のロイ・アンダーソンの映画はかなり特殊だ。それは観客が「さて、どんな世界を見せてくれるのか」と受け身になって身をまかせるのではなく、むしろ美術館で一つ一つの絵画と向き合うように、目を近めたり、俯瞰したりしながら自らの感受性でもって束ね、集約していくべき映像世界。感じ方は様々なので、中にはすぐに飽きてしまう人もいるだろうが、ワンシーン、ワンカットで撮られた33ものエピソードは、ある意味、人間の生き様を記した標本、もしくは壮大なタペストリーとも言い得る。とりわけ私の印象に刻まれたのは、何度も同じアングルで映し出される“終わりなき道”、そして夜な夜なバーで「素晴らしいよな!」と絶叫し続ける男だろうか。我々は一体どこから来て、どこへ向かうのか。もちろんここでは明確な答えなど得られるはずもない。むしろこの映画は、答えを求め彷徨い続ける私たち人類の姿そのものを、慈愛を込めて映し出している気がする。