映画レビュー
PRO
この手探り感と疾走感がクセになる
牛津厚信さん | 2020年12月27日 | PCから投稿
彼に何が起こったのかはまるで分からない。パラシュートにぶら下がった位置から始まるこの物語は、得体の知れない島で、一つ一つの手がかりと足場を確かめながら目的地を目指す奇妙なものだ。ある意味、ロールプレイング・ゲームのようであり、同時に生死の境目で魂が彷徨っているかのような気持ちにさせる。はたまた、深層心理における心の浄化作用を詩的かつ寓話的に紡ぎあげた物語としても受け止めうるのかも。そこに現れる、宮崎アニメのデイダラボッチやカオナシを思わせる黒い影は一体何なのか。この存在について説明や理由づけが一切ないところが潔い。セリフを排することで想像力はかえって刺激され、主人公の一挙手一投足や影に追われる感覚さえもがリアルに入り込んでくる。ラトビア人のクリエイターがほぼ一人で作り上げたというこの世界。彼と私たちが、言葉や文化を超えて”感覚”によって繋がりあっていることにひたすら感動を覚える一作だった。