映画レビュー
PRO
原作者ボールドウィンの複雑さをよく描けている
杉本穂高さん | 2019年5月31日 | PCから投稿
ジェームズ・ボールドウィンの傑作小説ビール・ストリートに口あらばの映画化。恋人たちという邦題も素晴らしいが、口あらばの文学的センスも捨てがたい。無実の罪で捕まってしまう男をなんとか救おうと恋人や家族が奔走する。横暴な白人警官から恋人を守ろうとした時、やりすぎないように彼の前にでる少女。男は守るべき者に守られてしまったことを恥ずかしく思い、自分に苛立つ。ボールドウィンは社会の黒人差別と戦った人であると同時に、同性愛者であることで黒人コミュニティからも差別を受けた。白人からの差別とともに、黒人社会のマスキュリンな部分への苛立ちがここに見て取れる。
アカデミー助演女優賞を獲得したレジーナ・キングが素晴らしい。鏡に向かって化粧している時、彼女は何を考えていいたのだろう。
映画は、小説よりも希望のある結末になっているが、甘すぎだとは思わない。とても力強い希望だと思う。
PRO
見終わって鮮烈に残るラブシークエンス
清藤秀人さん | 2019年2月20日 | PCから投稿
妊娠中の若い黒人女性が、無実の罪で投獄されたフィアンセの無実を晴らすために奔走する。時代は1970年代のニューヨーク、ハーレム。黒人であるということだけで、問答無用の差別が横行していた時代である。しかし、やはりバリー・ジェンキンス。オスカー受賞作「ムーンライト」の時と同じく、痛々しくも腹立たしい人種差別の実態にのみフォーカスせず、むしろ、そんな状況下でも愛と尊厳を貫こうとするカップルの若いエモーションを賞賛するように、終始彼らに寄り添っていく。だから見終わって最も鮮烈に残るのは、切なくも狂おしいラブシークエンスだったりする。未だ繰り返される差別の連鎖を、そんな普遍的なところに落とし込むのが得意なニュージェネレーションの台頭と、その未来を、最新作ではまたも強く実感することができた。