映画レビュー
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レフン監督が全米デビューを果たしたカー・アクション映画の傑作
ホンダケイさん | 2021年10月29日 | PCから投稿
ライアン・ゴズリング主演、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の出世作。LAを舞台に、犯罪者に雇われ逃走を助ける凄腕ドライバーの姿を描く。冒頭から強盗犯を車に乗せ、警察無線を傍受しながらパトカーや警察ヘリとチェイスする緊張感のあるシーンから始まる。どんなに追い詰められても決して慌てず、時にスローに、そして激しく自在にクルマを操るプロの仕事ぶりに引き込まれる。
原作はジェイムズ・サリスのクライム・ノベル。時制が行きつ戻りつしながらイメージ描写が挟み込まれ、主人公である「ドライバー」の幼少期から今に至るまでのエピソードが交錯するノワールノベル(続編として生き延びた主人公が7年後、婚約者を殺され復讐に立ち上がる姿を描いた邦訳版は未刊行の「Driven」がある)。実はこの小説、1978年のウォルター・ヒル監督による映画「ザ・ドライバー」にオマージュを捧げられている。同作もやはり“逃がし屋”を描いたカーアクションで、主演ライアン・オニールの代表作になっている(「ザ・ドライバー」自体はメルヴィル「サムライ」やペキンパー「ゲッタウェイ」の影響を受けている)。
そもそもレフン監督の起用は、このノワールな原作を気に入っていたゴズリングからの逆指名によって始まったという。彼はレフン監督の才能に早くから注目しており、主演が決まった際にゴズリングから打診の連絡をしたという。当初は興味を示さなかったレフンだったが、ゴズリングと会ったその日にイメージが湧き監督を引き受けたというエピソードがある。
主観が先行し映像化には骨が折れそうな原作を、レフンと脚本家ホセイン・アミニは大まかな設定をベースに、ファッションや小物、クセなどにオリジナリティを加え主役のキャラを設定、共演陣に人妻役のキャリー・マリガンやその夫のオスカー・アイザック、マフィアのロン・パールマンといった魅力的なキャストを配置した。また、効果音やサウンドトラックも不穏な映画の雰囲気をスタイリッシュに盛り上げ、目立つタイトルロゴやギラつく照明が現実感を揺さぶる。これは視覚障害をカムアウトしているレフン監督ならではの演出なのかも知れない。
さらには、凄まじいカーチェイスに加え、血まみれの格闘アクションや人体損壊など、遠慮のないゴア・シーンも多く登場する。エグいほどのバイオレンス描写で定評のあるレフン監督の持ち味を十分に活かし、原作には無い魅力が加わっている。2010年代を代表する作品の1本だ。